第11話 清浄なる奇跡は望まない

「大丈夫か?」


 レヴォルは目を覚ましたノインの瞳孔を観察し、容態を確認する。


「・・・意識はあるようだな、特に痛む所は無いか?」


 ノインは体を起こそうとして、背中に走る激痛に顔をしかめた。


「無理しちゃだめだよ!一応治療はしたけど、完全に治ったわけじゃないから」


 城の崩壊の後、一行は近くの町宿にて休息を取った。


 カオス・シンデレラとの激戦は、並のカオステラー五体分、連続討伐ボス・ラッシュに匹敵するほどの繁劇を極め、心身ともに蓄積した疲労は並ならぬ物だったからである。

 そして一行は、宿の一室にてノインの介抱と尋問を行う事にした。


「目を覚ましていきなりで申し訳ないけれど、質問してもいいだろうか?」


 レヴォルは体を起こしたノインに正対して、慇懃な所作で尋ねた。


「俺の名はレヴォル、空白の書の持ち主で、旅をしている、君は、どこから来た何者なんだ?」


 ノインの正体についての仮説は既に立っているが、改めて自己紹介から会話を始め、情報を引き出そうという魂胆である。


「僕・・・は・・・」

 ノインは暫時の間、思案に耽った後に、申し訳なさそうに答える。


「名前はノイン、そして西から来たって事以外、何も、分からない」

「・・・記憶喪失なのか?」


 先の戦闘でノインは死にかけていたけれど、記憶を喪うようなショックは何も無かったはずだ。


「・・・分からない、僕は武闘会で闘って勝つ以外の役割なんて、何も知らないから・・・」


 ノインは渡り鳥のとして、武闘会で優勝するという役割、使命を与えられていた。

 それは本来の「渡り鳥」が帰ってくる為の下地作りの為に。


 だが既にお城は崩壊し、武闘会は有耶無耶のまま終わってしまった。


 ノインに与えられた結末を迎える為には「再編」するしかない局面なのだが、一行はそれをせずに、そこから更に踏み込む道を選んだのであった。


「まぁこれも理解できる話ではある、ノインは奴等にとっては自分の野望の為の駒の一つでしか無いわけだから、大した情報を持たないのも仕方ない話だ」

 ティムが嘆息しつつ頭を掻いた。


「取り敢えずは西に向かってみるべきかしら?ノイン、案内を頼める?」

「構わないけど・・・何も無いところだよ?」

「貴方のに会いたいの、聞きたい事があるから」

「僕の親・・・ごめん、何も思い出せないや」

「それは思い出したらでいいわ、先ずは西に向かいましょう」

 こうして一行は渡り鳥の手掛かりを探しに西へと度だった。

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