青髭の想区
第10話 清浄なる奇跡は望まない
今回は、一つ高い視点から物語を俯瞰しよう。
我々の役割は「空白の担い手」を導く事。
であればさる一つの必然的仮説が成り立つ事になるが、それを明かすのは
だから私が解説するのはさして物語の根幹に差し障らない些事な事柄。
前回のシンデレラの想区は、謎だらけで全てを理解するのは難しいものであっただろう。
故に、ちょっとだけ注釈させてもらう。
優れた作品であれば、読み手の想像力だけで百物語、九十九物語でも補完できる物であるが、この駄作は、私の作品と違い、いささか作り手の不備が目立つからな。
故に私の語り手としての補完により、稚拙な茶番劇を、興趣な悲劇に昇華させてやろう。
誰にとっての悲劇になるか、それは追及しないがな。
さて、先ずはシンデレラの想区の大まかな流れから解説する。
あの想区にはシンデレラが二人いた、そして二人は既にそれぞれの結末を迎えた後であったのだ。
王妃になった少女と魔女になった少女。
そして二人はそれぞれの運命を全うし、それ以上の物語は紡がれていない。
故にシンデレラの想区は完結した話なのである。
結末を迎えた後なのになぜカオステラーがいて想区が崩壊しないのか?
という疑問もあるかもしれないが、想区が崩壊するという通説は誰かが伝えた仮説、訛伝であるという可能性を否定することも出来ない物である。
シャドウ化して新生した英雄に討伐されるという脚本もある事だしな。
これは、調律したカオスヒーローが新たな原典としてどこかに保管されるという現象から鑑みても、カオスが我々より上位の存在から容認されているという現実は確かに存在しているという事だ。
話を戻そう。
シンデレラの想区にいるカオステラーであるが、その実、フェアリーゴッドマザーがカオステラーになったのにシンデレラは関係無い。
何故なら、シンデレラの物語はこの想区に於いて大きな意味をもつ別の舞台装置としての役割があったからだ。
もしも、災厄の魔女に関する一連の出来事を記憶してないのであれば、ここから先の解説を理解するのは難しいだろう。
だがしかし、そこは省略し単刀直入に説明させてもらう。
ここはかの調律の巫女達が旅した想区を丸々内包する、渡り鳥の想区である。
無論、そんな途方もない
故に、我々の様な創造主の代用品を舞台装置として配置する事で、調律の巫女の旅の再現における不測事態の調整を行うという訳だ。
その為に想区に干渉できる一定の権限を与えられる。
そして「調律の巫女」、彼女もまた想区の創造主としての一定の権限を与えられていた。
千夜一夜物語の想区に於けるシェヘラザードの権能の規模を十倍に拡大したものと考えれば分かりやすいか。
この想区に於いてはカオステラーの発現は必然的であり予定調和された出来事。
それを管理するのが舞台装置である我々「創造主の代用品」の役割であり。
使役できるのが、創造主である調律の巫女の権能である。
ヒーローの魂を収集し、他者に付与するという使い方は災厄の魔女に通ずる所があるかもしれないが、そこはただ事実として受け止めて欲しい。
そして、我々のような創造主を、遥かに上回る権能を与えられた少女が、己の野望を叶えるために広大な想区をまるごと支配し、混沌に歪めたという訳だ。
災厄の魔女がシンデレラの想区の主役を目指したように、シンデレラの想区とは「願いを叶える」象徴のような物である。
故に彼女は、シンデレラの想区を長きに渡って恣意的に操作して、シンデレラの魂を集めた訳だ。
その為に彼女が歪めた想区の在り方は三つ。
舞踏会の次の日に想区のリセットを行い、短期間の間にシンデレラを量産したこと。
フェアリーゴッドマザーの記憶を改竄し、シンデレラに魔法を授けなくしたこと。
渡り鳥の代役を立てて、既に役目を終えて旅立った少年に、「新たな運命」という居場所を作ろうとしたこと。
それを、長きに渡って繰り返した。
混沌の力を使い、肉体の老化を停止させたまま何度も何度も。
しかし、他に方法が無いと知りつつも、一向に成果の上がらないその行いが正しいのか疑問に思った事であろう。
強大な混沌の力を操る毎に彼女の魂は磨耗し汚染されていった。
そうして擦りきれていく内に、当初の願いさえも歪められてしまったとしても、仕方ない事だろう。
彼女は物語が好きで、渡り鳥の少年が好きな、平凡な幸せこそが似合うような少女だったのだから。
そんな彼女が、望み、そして空白の担い手達が導かれた。
果てしない輪廻の
終わらない願いの決着を、他人の手に委ねたという訳だ。
届かない星に
そして今回は、信仰を
原典では無い青髭の想区を知る君たちからすれば、信仰とは乗り越える物であり、されど捨てきれぬ物であるという
しかして今回の信仰とは悲劇である。
腐敗と堕落と悪辣を極めた中世ヨーロッパの一貴族として産まれ、その在り方を体現するようにに育てられた男が、信仰によって生まれ変わり、信仰によって死ぬという話。
その一部を抽出し凝縮したのが今回の青髭の想区である。
本来はもう表舞台に上がる筈の無い「死んだ」存在である私だが、極上の悲劇の推敲という役割とあれば、私以外の適役もおらず、不本意ではあるが差しで口を挟むのもやむを得まい。
それでは引き続き、空白の運命と悲劇の物語しばしご覧あれ。
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