第9話 二人のシンデレラpart9
「結局、渡り鳥って何だったんだ?」
エレナの魔法で体を回復させた四人は、想区を再編させるために情報を纏める。
「恐らくだが、渡り鳥は存在しない」
ティムの質問にレヴォルは首を横に振る。
「俺は、渡り鳥の、その
容姿にほとんど違いはない、だが彼が渡り鳥ではないと断言できる理由を、
「ノインは、そもそも想区の住人ですら無いからだ、彼は「空白のホムンクルス」、人工的に生み出された
レヴォルの解答に、怪訝な表情を浮かべる三人。
「空白のホムンクルスって一体?」
「元々は失われた
「まぁ、これは学院でも聞いたことある話ね、半信半疑ではあったけど、実在したとは・・・」
「しかしわざわざ、そのホムンクルスを戦わせる理由は何だ?手間ばかりで何の成果もなさそうだが」
理由。
そこがこの想区にとって一番重要な所であり。
まだ確信を持てていない部分である。
「憶測ですまない、だがまず聞こう、ここは何の想区だ?」
レヴォルは理解しやすくして貰うために根本から問いかけた。
「シンデレラの想区かと思ったら、渡り鳥の想区で、でも渡り鳥がいないから、実はシンデレラの想区?」
エレナは自分の中の結論を述べる。
「半分正解だ、正確には渡り鳥の想区だが、渡り鳥が不在の為、シンデレラの想区になりかけている渡り鳥の想区だ、だから代役が必要なんだ」
レヴォルのその主張を聞いて、三人は目から鱗が飛び出すような思いだ。
「主役が入れ替わろうとしている想区だなんて、異例にも程があるでしょう!」
アリシアは納得いかないといった様子だが、レヴォルはゆっくりと推理を展開していく。
「だが、この想区には意図的に在り方をねじ曲げられたような痕跡があった、カオス・ゴッドマザーはシンデレラの在り方を変えようとしてシンデレラに魔法を授けなかったし、女帝は、武闘会を勝ち抜いてシンデレラの座を勝ち取ったと言っていた、つまり、この想区のシンデレラは特定の誰かではない」
恐らくシンデレラが主役ではないから、いくらでも代用が利く脇役のような存在だからこそ、そのような改変が出来たのだろう。
「黒幕の目的はシンデレラの魂を集めてシンデレラの想区に多様性を持たせる事だったか?流石にそこまで原則から逸脱した
「・・・つまり黒幕はこの想区で何かしらの実験を行っていると考えるべきなのかしら、目的は分からないけど」
アリシアの見解が現時点で推理出来ることの限界だ、これ以上を知るには情報が足りない。
「ああ、その上で結論をだすんだが、カオステラーは討伐し、今は再編が出来る状態だ、しかしここで選択肢は二つつある」
「リページね」
エレナは謎の全てを解き明かしたいが為にそう答えるが、レヴォルは首を横に振る。
「渡り鳥のいないまま、この想区をシンデレラの想区としての形に「再編」してこの想区を去るか、いるかも分からない渡り鳥を見つけて真相を追い求めるかだ」
レヴォルの結論を聞き、エレナは首を傾げる。
「どういう事?」
英雄と
「この想区が狂いだした発端は恐らく渡り鳥の消失にある、主役を失った想区が、本来通るべき道筋を失って、支離滅裂と化した、そしてそこに目をつけた誰かが渡り鳥の代役を立てた、しかしその代役は、本来の代役とは違う」
代役についての知識も本来レヴォルは知らない、これは接続した英雄から共有した知識だ。
「それがノインって訳ね、でも何のために・・・」
四人は今尚静かに寝息をたてているノインを見る。
彼の背後にいるかもしれない黒幕の存在の影を感じながら。
「分からない、だが代役を立てるには二通りの理由があると思う、主役が死んだ場合、ストーリーテラーは似た運命を持つ存在を代役に立てる、だが主役が死んで無かった場合はどうだろう、何らかの理由で消失した主役の不在に、ストーリーテラーの干渉受けずかつ、主役の帰還する土台を作るために、空白のホムンクルスを代役に立てる、こうは考えられないか?」
本来あるべき運命に抗い、己の望むべき運命に変革するのが
渡り鳥の原典である英雄と融合したレヴォルには、彼女の目的を逆算して考える事が出来たので、大まかにだが、察しはついていた。
その上でもう一度問いかける。
「渡り鳥の存在を消すか、渡り鳥に会うか、どちらを選ぶべきだろうか」
英雄の軌跡を知ったレヴォルには後者が修羅の道となることを予見している。
しかし、そのせいで彼女を放っておけなかった。
そして、仲間がここで好む道よりも、より良い未来を紡ぐ修羅の道を選択することも計算済みだった。
「・・・まぁ中途半端な状態で再編しても何が起こるか分からないしね、こうなった以上は、とことんやるわよ」
先ずアリシアが威勢よく頷いてくれた。
「死ぬような目にあった直後でも即答出来るんだからお嬢サマは大したもんだ、やれやれ」
ティムも嫌々ながらアリシアに追従する。
「うんうん、やっぱりもやもやを残したままなんて出来ないよね!」
エレナは好奇心に満ち溢れた顔で立ち上がった。
「ありがとうみんな、感謝する・・・っ!」
レヴォルは心の中で一人、仲間の命を背負う覚悟を決めて、深く頭を下げた。
もう二度と仲間を傷つけさせてたまるか。
堪えきれない悔しさが、脈を打って全身に力を滾らせる。
誰にも屈しない不動の強さをレヴォルは求め、その願望に
やがて彼は
誰の記憶にも残らない物語の
レヴォル達のいる場所から離れた、とある想区の片隅にたつ場所。
壁はひび割れ黒ずみ、庭は荒れ果て、天井には蜘蛛の巣が張られた血なまぐさい城にて。
「あら、随分懐かしい本を読んでいるわね、貴方はその本をあまり好いていなかった筈だけど、どうして?」
「あの方の夢を見て、それにシンデレラも一緒だったから、縁を感じて、」
そう言って「渡り鳥の伝説」と題がつけられた本を本棚に戻した。
「今頃は彼が武闘会で優勝し、シンデレラにガラスの指輪をプレゼントしている頃でかしら」
「そうですね、彼は壺毒で作られた狂戦士だから、まず負けることはないでしょう」
彼の闘う様を思い浮かべて女は苦い表情をした。
「あの子が貴方の作り出した最高傑作になるのかしら」
「最高傑作?、あれは最低の失敗策です、従順で、圧倒的に強いという要望を満たすために、あの方の大事で美しい部分を削ぎ落とした殺戮マシンなのだから」
「でも、それ以前の子達はそもそも話す事もままならなかった筈、それに比べたら大きな進歩と言えるのではないかしら」
「・・・CAシリーズの9番目、A-Ⅸ《アーノイン》が一番の成功作となるとは、なんの因果かしら・・・」
それを超える成功体を作れるように、休憩を終え工房に向かう。
城の中には、少年の悲鳴が響いていた。
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