第12話 創造主ジルドレ

 広大な自然と草原が広がる大地。

 中世の街並みとは牧歌的で宗教的な生活が送れる最低限度の建築物しかない。

 何故なら当時は、十字軍、百年戦争、オスマン帝国の西欧侵攻と続くように、長きに渡る戦争により財政は逼迫され、文化再生ルネサンスによる活動を充分に行えなかったからである。

 この十字軍による文化と財産の強奪が、ルネサンスによる文化の最盛期を形成すると共に、後の革命へと繋がる絶対王政の基盤を助長するのである。


 閑話休題。


 そして、そんな当時にあって、栄光と繁華の威容を誇る城がここ、ジルドレの居城であるチフォージュ城である。


「ここが、貴方の故郷・・・なんだかちょっと不気味な所ね」

「立派なお城があるのに、人の気配が薄すぎる」

「あまり平和な想区じゃなさそうだな・・・」


 ノインを除く四人は、閑散とした風景から殺伐とした気配を感じると共に緊張を高めた。


「ああ、旅人さん、お願いですどうか僕を助けてください」

 突如現れた薄汚い襤褸ボロを纏った少年が、レヴォルにしがみついて嘆願した。


「君は・・・?」

「僕はパック、近くの村から攫われて、ジルドレ様のお城から逃げたしてきたものです」


 ジルドレは青髯の想区のモデルになった人物で近くの村から少年を攫ってきては虐待し、拷問にかけた上で殺害するという鬼畜の所業を行っている。

 青髯の想区であれば、殺されるのは嫁いできた乙女になるはずだが・・・。


「ジルドレ・・・か」


 救国の英雄であり、歴史上でも類い希なる知名度を持つ聖女と轡を並べた、想区の主役となる器を持った、謎の多い人物。


「話を聞かせてもらえるかな?」

 レヴォルはパックの頭を撫でて、優しく訊ねた。


 パックの話を纏めるとジルドレの居城であるチフォージュ城には沢山の少年が今なお監禁されていて、陵辱を受けているそうだ。


「早く助けにいかないと」

「でも、攫われているのが少年なのだとしたら、ここは青髯の想区じゃない、主役は誰になるんだろう?」

「この想区は異端イレギュラーだらけだから常識に当てはめた推理に意味なんてないし、非常識な推論は妄想に過ぎず、キリがないだろう」

「鬼が出るか蛇が出るか、出たとこ勝負で攻め込むしかないわね」


 どちらにしろ今回は悪役がはっきりしている。

 例え想区の流れとして犠牲が必要なのだとしても、ジルドレは裁かれるべき悪人だ。

 ジルドレの非道を止めることはストーリーテラーの筋書きに大きく逆らうような叛逆にならないだろう。


 この想区のを知るためにも、核心に踏み込まなくてはならない。

 未知への不安と恐怖を飲み込んで四人はチフォージュ城を目指した。


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