第5話 二人のシンデレラpart5

 本来舞踏会とは、貴族や富裕層ブルジョワの紳士淑女が交流し、お互いの品位や教養を値踏みし、特権階級としての結び付きを強める意味を持つが。


 その場に於いては、平民や芸人を招き入れて行われる武闘会が、いかにその本旨からそれた物であるかは、語るまでも無いだろう。


 しかし、そうなった経緯にはちゃんと理由がある。

 この想区にとって、シンデレラが魔法によって変身する舞踏会の日は特別なもの。


 その日こそ、身分の格差に蓋をして、国民皆との交流の場を開くべきだという王妃の建前、もとい主張によって、武闘会は開催されるようになった。

 その起源には、先に出た「渡り鳥伝説」の成立が開催の決定に大きく寄与した事は言うまでもない。


 そしてレヴォル達は、その舞踏会に来ていた。


「舞踏会に来たのはいいけど、招待状がないんじゃどうしようもないよう・・・」


 城に来て直ぐ、城門にて警衛をしていた番兵に追い返されてしまう。


「舞踏会は招待制で武闘会は事前に予選を勝ち抜いて無いとだめなんて、リページして来た身としては不親切にも程があるはね・・・」


 そもそも世に催し物があれど、運命を持たない人間には参加する資格すら与えられないのが常ではあるが。

 しかし、目的が渡り鳥の捜索である以上、正面から入場し四人で手分けして捜査できるのが最善だ。


「どうする、こうなったら魔法で番兵を眠らせるなりして強行突破するか?」

 だから強引な手段を用いることもやむを得ない訳ではあるが。


 そこに、煌めくような金髪をして、仕立てのいい服を来た見るからに育ちのよさそうな美男子が声をかけてきた。


「失礼、さっき見ていたんだけど、もし武闘会に出たいのなら僕の出場資格を譲ろうかい?」


 突然やって来た渡りに舟の申し出に、一同は面食らうが。


「いいのだろうか?折角予選を勝ち抜いたのに」

「ああ、頑張って予選を勝ち抜いたんだけど、恋人に話をしたら止められてしまってね、良いところを見せたかったんだけど「貴方はそのままで素敵よ、もし怪我でもしたら泣くからね」なんて言われてしまっては返す言葉も無いだろう?」


 気障っぽく、とんでもないのろけ話を彼は語るが、それが幸せだと噛みしめてるような雰囲気に、なぜだか怒りは沸いてこない。


「それに僕たちは普通に招待状も貰ってるんだ、ほら」

 そう言って彼は懐から王室の紋が捺された封筒を見せる。


「だから不戦敗になるくらいなら代わりに出て欲しいんだけど、いいかな?」

「見返りはなんだ?」


 ティムは単刀直入に聞いた。

 ここまでの話、彼にはなんのメリットも存在しないというのは、胡散臭すぎた。


「ノブレスオブリージュとでも思ってくれれば、まぁ強いて欲しい物を言うなら優勝したら貰えるガラスの指輪かな、それをプレゼントしたカップルは永遠に結ばれるって伝説があるからね」


 ウィンクしながらのろける彼の姿に、ティムを含め四人は毒気を抜かれ、レヴォル達は厚意を受けとることにした。


「感謝する、この恩は一生忘れない、困ったことがあったら何でも言ってくれ」


 丁寧な作法で礼を言うのを男は固辞した。


「大袈裟だなぁ、だけど一生覚えててくれるのはいいね、なんせ僕らは・・・」


何かをいい淀んで男は言葉を繋げた。


「僕の名はロメオ、舞踏会は全員仮面の着用が義務だから気をつけてね、それじゃあ恋人を待たせてるから失礼するよ、頑張ってね、アデュー」

 そう言って入場券を渡すと男は爽やかな風が吹くが如く去っていった。


「どう思う?これ」

「疑わしい話だが、嘘を言ってるような雰囲気では無かったな」

「悪い人には見えなかったけど」

「・・・一流の諜報員は懐柔や疑わしさを感じさせないことにかけても一流だ、俺達の考える事は、武闘会に行くか行かないか、それだけでいい」


 ロメオの事は信用できそうだが、手紙に関しては別と分ける事で本題に入ることを促す。

 そうなった場合に出される結論は一つだ。


「敵が待ち構えているのだとしても、ここで手をこまねいているよりはマシね」


 早々に結論を出すと、四人は武闘会に向かった。




 武闘会は舞踏会のすぐ隣で開催された。

 大広間を舞台にして武闘会の参加者は対決し、その様子を広間の上にドーナツ形に作られた階層を以て舞踏会の来賓が観戦するといった具合は、まさに古の闘技場コロセウムを模したと言えるだろう。


そんな中、武闘会が始まって二時ふたときほど、この日一番大きな歓声が、会場に響いた。


「長時間に及ぶ壮絶な激戦を勝ち抜いたのは、初参加にして怒涛の快進撃を見せる貴公子、ロメオだったあああああ!!」


実況がそう締め括ると、観客達はスタンディングオベーションで以って健闘を讃えた。

その勝者ロメオ、もといレヴォルは、その相手を称える為に、額に垂れる汗も拭わないままに対戦相手に握手を求める。


「あこそまで研ぎ澄まされた太刀筋を見れた事を光栄に思う、全盛期の貴方が相手であれば足元にも及ばなかっただろう、この素晴らしい立ち会いに感謝する」

「確かに太刀筋はまだまだ未熟だが、そなたの真っ直ぐな剣は受けていて清々しかったぞ、そなたは技量で劣る分、知略を生かして勝ったのだ、断じてその勝利を貶める必要は無い、よき戦いであった」


 そういって老夫はレヴォルの手を握り豪快に笑った。

 互いの全てを出しきってする決闘のなんと清々しいものだろうか。

 それに対して。


「なんとまたしても一瞬で勝負がついてしまいました、剣聖とも呼ぶべき凄まじい剣技でもってここまで勝ち抜いてきた、アルチュールさえも瞬殺だああああ!」


 彼、ノインは無機質な印象を受ける淡々とした一閃を持って、アルチュールを打ち破った。

しかし多くの人には一閃に見えるそれは、ただの一閃ではない。


 人がまばたきをするより短い刹那の間に、剣気を込めて剣を振るったのである。

その衝撃波は一撃で相手を倒すに不足無く。

 本気を出せば容易く相手の命を奪うこともできただろう。


 それを受けて五体満足でいられた事こそ幸いであり、前兆なく振るわれた死神の大鎌に反応したアルチュールの技量の高さを物語っていた。


 その剣技はもはや人の域に在らず、また人に成せるものでも無い。


 だが誰も、彼の中に広がる深淵の、その暗黒くらやみの存在にさえ気づかない。

 なぜなら想区の住人は、予期しない事態の事など考えない、与えられた運命を享受し全うするだけだからだ。


 だが空白の書の持ち主達は違う。

 すぐに彼の持つ異端さに気づいた。

「あいつが今回のカオステラーなのか?」

「どうだろう、少なくとも今のところは異変は無いが」

「しかしのっぴきならない雰囲気がぷんぷんしてる事だけは確かだな」

「大丈夫レヴォル?あれだけ凄い人と一対一なんて危険過ぎると思うんだけど・・・」


 エレナは心配そうにレヴォルを見遣るがレヴォルは笑って応える。


「問題無い、彼が渡り鳥なのだとすれば、俺は負けて構わないからな」


 そもそも、空白の書の持ち主が舞踏会に参加する事自体が問題行為である。

 だからノインを見極める事を目標とし、適当なタイミングで降参すれば危険は少ないはずだ。


「そうは言ってもな、初見殺しにして、初見じゃなくても反応出来ないアレを回避しないことには危険極まりないぞ」

「それについては秘策がある、心配をかけてすまないが、俺を信じてくれ」


 そう言って力強い瞳でレヴォルは拳を突き出した。

 その拳に仲間達はエールを送る。

 エレナの魔法で体力を回復して貰ったレヴォルは決戦に望む。


 武闘会の大詰め、決勝戦の幕が開かれる。


 果たして、レヴォルの運命やいかに・・・!

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