第4話 二人のシンデレラpart4
「・・・どうしよう、街まで来たのはいいけど全く 調査のしようが無い気がする」
行き交う人を流し見て、エレナは言う。
「先ずは地図を買って辺りの地形を知るのはどうだろう?自分の立ち位置を把握しておけば旅にでた渡り鳥を追うのも容易になるかもしれない」
街に着いてからの基本、物資の補充がてら、レヴォルがそう勧めるが。
その必要はないとアリシアが笑って答える。
「ふっふ~ん、私達は既にシンデレラに出会っている、だから既に彼女との間には
「・・・俺達が出会ったのは巻き戻す前の未来のシンデレラだ、だからお姫サマの言うとおりにならない可能性もあるがな・・・」
ティムは小さく嘆息した、そうは言ったが、多分シンデレラには会うだろう、そんな予感がするからだ。
想区とは多少の分岐はあっても常に一本の道と一つの終着点によって構成される。
そしてその歩みが止まることはない。
しかし空白の書の持ち主はその道を変えてしまうある意味障害のような存在だ。
何もしなければ無害だが、何かすればそれは転がり落ちる小さな石がどんどん大きな石を巻き込んでいくように、変化をもたらしてしまう。
だから、空白の運命を持つ自分達が舞台に上がった時点で、この想区の運命は変えられた。
想区の主役と空白の書の持ち主、そのどちらに主導権があるのかはもはや分からない。
彼らを分かつ事はより大きな波紋を生むだろう、だからこそ。
想区の運命の象徴たる、主役に絡むのは必然なのだ。
主役が空白の書の持ち主に関わらなければ、因果は逆転し、空白の書の持ち主達が
そんな、自分達の持つやるせない業についてを皮肉を感じながらティムは頭をかいた。
しばらくしない内に、出会いは訪れた。
「きゃあ!」
両手に沢山の荷物を持った少女が、何かにつまづいたのか、倒れる。
それに素早く反応したレヴォルが荷物を受け止めながら、少女を支えた。
「大丈夫か」
「は、はい、ありがとうございます・・・」
そう言って荷物を抱えながら頭を下げる彼女は、先刻、シンデレラと名乗った彼女とはまるで雰囲気が違ったが、どことなく面影を感じさせる。
今の彼女はプリンセスではなく、灰かぶりの少女、だから貧相でみすぼらしくてもしょうがない、と四人は勝手に納得した。
「シンデレラ、で合ってるかしら?貴方の名前」
「・・・はい、失礼ですが貴方達は一体・・・?」
突然名前を聞かれたシンデレラは怪訝に思ったが、助けて貰った手前、それを努めて隠して尋ねた。
「俺達は今渡り鳥という人について調べているんだが、何か知っている事はないだろうか?」
レヴォルは誠実そうな口調で率直に聞いた。
「渡り鳥・・・それって渡り鳥伝説のお話の?」
シンデレラは意外そうな顔で答える。
「?・・・知り合いでは無いのか?」
「いえ、渡り鳥伝説というのはこの街に伝わる一つの民話ですし、いつの時代の話なのかも、私にはさっぱり・・・」
シンデレラは申し訳なさそうに答えた。
「その渡り鳥伝説についてを教えて貰えないかしら?」
アリシアのその申し出をシンデレラは頭を下げて断った。
「すいません、私、お姉様が舞踏会に行く準備をしないといけないんです、その話ならこの街の住人ならみんな知ってると思うので、どうか別の人に聞いてください」
そう言ってシンデレラは、レヴォルの荷物を取り返そうとするが。
「わかった、ひき止めてすまない、お詫びにこの荷物は俺が家まで運ぼう」
レヴォルはお節介で実直な人柄だった、少なくとも、誰かの荷物を勝手に引き受けるくらいには。
「すいません、ありがとうございます、よろしくお願いします」
本当に時間が無いのか、シンデレラは早口で礼を言うと駆け出した。
「・・・速いな」
レヴォルも慌ててそれを追いかける。
残された三人は。
「王子サマは行ったけどどうする?」
「付いていっても時間の無駄だし、渡り鳥伝説についてを調べましょうか」
「伝説になってるって事は古い話なのかもしれない、一体いつの話なんだろう?」
「確かに、あの手紙からこの展開になるのは予想外過ぎるわね、一体どんなオチがつくことやら、とにかく聞いてみましょう」
「それじゃあ、ここまでで大丈夫ですから、ありがとうごさいました」
そう言ってシンデレラはレヴォルから荷物を受け取り、息を切らせながら家に入っていった。
瞬間、シンデレラの謝罪と、女性の怒声、そして、おそらく、シンデレラが打たれる音が聞こえる。
それでもシンデレラは謝りながら、懸命に姉たちの世話をしているようだった。
シンデレラの話をもっとキラキラした夢のある話だと思っていたレヴォルは、現実を知り、いたたまれない気持ちになった。
フェアリーゴッドマザーの言葉が蘇る。
「この世界のプリンセスはたった一人だけ」
それ以外の、シンデレラに似た運命を与えられた少女達は今も泣き続けている。
「俺には、他人の運命に介入する資格なんてない、それでもッ、この不条理はあまりにも無情だ」
かつて失ったお姉ちゃんの痛みを感じながら、理不尽に耐えるように、レヴォルはぎりっと、拳を握りしめた。
「救いは、あるのだろう、少なくともこの想区には」
渡り鳥、それがシンデレラにとっての救いであり、現在レヴォルの胸を刺す疼痛の特効薬だ。
その正体を探るべく、レヴォルは仲間達の元に向かう。
「渡り鳥の伝説はこの想区に昔から伝わるっていうだけで、いつからあるのかは分からないみたい」
三人と合流したレヴォルはそのように説明を受けた。
渡り鳥伝説について得られた情報はこうだ。
シンデレラの幼なじみの少年は、姉たちからいじめを受けるシンデレラを励まし、心の支えとなる。
やがて舞踏会の夜に人知れずシンデレラの窮地を救い、別れも告げず旅に出る。
シンデレラは彼の事を次代のシンデレラ達にも知って欲しいと伝説を残す。
渡り鳥は、舞踏会の日に開かれる武闘会にて、シンデレラに会うために一夜限りで姿を表す。
「つまり、今日の武闘会に行けば、渡り鳥に会えるかもしれないわけか」
「だが、リページ前の感じだと武闘会が開かれていたとは到底思えんぞ」
カオステラーに占拠されて多くの人がヴィランに変えられていたとはいえ、催しがあったとは思えないほど城の中は静寂としていた。
「でも、街の人に聞いた話だと、王子様の十八歳のお誕生日を祝う今日の舞踏会は、武闘会も開くって言ってたよ」
「そこなのよね、もしかしたらリページで巻き戻した時間が一日以上ある可能性もあるのだけど」
「そんな事ってありえるのか?そもそも、リページは、俺達が想区にたどり着いた時間より前には戻れないはずだが」
だから今夜は武闘会のない舞踏会の日、もしくはその前日ということになるはずだが。
「そうなのよね、だからどこかで矛盾が生まれるんだけど、それが何なのか・・・」
積み重なる謎に三人は黙考する。
それをエレナが打ち破った。
「ねぇ、ずっと気になってるんだけど、この想区って、そもそもシンデレラなのかな?」
「それは・・・今となったらそうじゃない可能性の方が高いわね」
「それとさ、シンデレラじゃなくなるシンデレラの運命と、シンデレラのままのシンデレラの運命が存在するっていうのも矛盾してない?」
エレナは自分の中に燻る違和感をぶちまける。
そうすることで四人の知恵は回り始める。
「・・・つまり、シンデレラは二人いた」
もしかしたら、この想区にはそれ以上のシンデレラがいるかもしれない。
「そして先刻の舞踏会では、武闘会は開かれていなかった」
今とその前の決定的な矛盾、それが
「つまり、王妃となるシンデレラと、旅に出るシンデレラはそれぞれ別に存在していた・・・!」
「先刻会ったシンデレラが旅に出るシンデレラだとすると、渡り鳥も旅に出るから武闘会は開かれない」
「渡り鳥の手紙」から得られた情報から照らし合わせればそういう話になる。
しかし、武闘会が開かれるなら結論を着けるにはまだ早い。
「だが、シンデレラの原典の中には二夜続けて舞踏会を開くものもある」
「つまり、今日は、シンデレラが旅にでた後、もう一人のシンデレラが舞踏会に行く日とういうことになる・・・!」
舞踏会が二夜続けて行われるという原則に則して考えるのなら。
一夜目 舞踏会・シンデレラが旅に出る
二夜目 舞踏会・武闘会が開かれる
の順序は前後を入れ換えられないだろう。
なぜならシンデレラが別人だった場合、二夜目に ガラスの靴を落とすシンデレラが旅に出るシンデレラでは話が成立しなくなるからだ。
そして渡り鳥は人知れず、幼なじみのシンデレラを救って旅に出る。
旅に出る部分は省いても、救うという役割が裏方にあることを求めている以上は武闘会に参加しない。
「渡り鳥は一夜目に何かしてシンデレラが旅にでて、二夜目に武闘会に参加する・・・」
口に出してみても違和感しかない、そうなるとリページをしたはずなのに、全く巻き戻らなかった事になる。
「どういうことだ・・・確かにリページをしているはずなのにそのまま日を越したというのは」
考えられる仮説はいくつかある、だが、矛盾なく筋の通った仮説はない。
だかそれでも結論を出すならこうなるだろう
「もしかしたら、そもそもリページする前の日は舞踏会は開かれていなかったんじゃ無いのかしら?」
つまり、舞踏会が終わった後、魔法の解けた日の晩に、四人はシンデレラに出会ったということ。
「それならば、辻褄が合うが・・・」
だとしたら何故、あのシンデレラはお城に行ったのか。
疑問が晴れることはない。
「これはもう渡り鳥に合って直接聞くしかないわね」
迷宮に迷い混んだかのように堂々巡りを続ける疑念を晴らすにはもうそれしかない。
四人は真相を探す為に武闘会に向かうのであった。
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