第3話 二人のシンデレラpart3

 昔昔あるところに、剣士を目指す男の子がいました。

 いつか王妃になる幼なじみを側で守れるように。

 ではなく、いつか旅で出会う仲間達を守れるようにです。

 彼の旅は果てしなく長い物だったので、生半可な力ではきっと仲間を守れないと考えた彼は、雨の日も風の日も、雪の日も雷の日も鍛練を怠ることはありませんでした。

 そしてもうひとつ、この想区にはある運命を与えられた少女がいました。

 彼女は少年の幼なじみであると同時に、後に調律の巫女と共に旅をする運命を与えられていました。

 はてさて、原典の「シンデレラ」にはいない登場人物がいますが、この想区は本当にシンデレラの想区なのでしょうか。

 謎が謎を呼ぶ物語、真相は追ってご覧あらせませれば。




「・・・ここが、渡り鳥の家」


 リページにより巻き戻された世界。

 シンデレラから渡された手紙には、渡り鳥の家の場所が記されていた。

 それに導かれるまま、四人はここに来た。

 ノックをして所在を確認したが返事はない。

 急を要する事態だったのでやむなく押し入ることにした。


「鍵はかかってないようだな、失礼する」


 無礼を詫びて、レヴォルは戸を跨いだ。

 もう何年と使われていないのだろう。

 清掃はされているようだが、時計は針を休ませ、本は黄ばんでいて、経年の劣化が目立つ。

 小屋と言った方が分かりやすいくらい小さな家だったが、人が生活できる最低限の物は揃っていた。

 そして、小さなテーブルの上に手紙が置かれていた。


「この手紙、読んでみるべきなんだろうか」


 本の頁を破った紙に何かが綴られている。

しかしその内容が誰に送られた物か分からない以上は、レヴォル達に読む権利は無い。


「つっても、読まないとどうしようもねーだろ、シンデレラからの手掛かりはこれしかねーんだし」

「こんな小さな小屋だと隠し扉なんかも、見つからないだろうし、読むしか無いわね」

「うーん、床が外れたり、ベッドの下に仕掛けがあったりはしないみたいだし、読むしか無いかな」


 三人の意見を確認して、レヴォルは頷いた。


「わかった、読もう・・・重ねて失礼する」




 拝啓渡り鳥さん

 貴方がこれを読む頃には、私はきっとこの世にいないでしょう。

 だって、運命の書にはそう書いてあるんだもん。

 笑っちゃうよね、誰もが羨むプリンセスの運命を与えられた少女でも、大した理由もなく呆気なく死んじゃうんだから。

 でもまぁ、平民のプリンセスってプレッシャーだけでも大変だから、むしろ名前を変えて旅に出るって筋書きは悪くないかも知れないかな。

 魔法だって使えるし。

 魔法の解けたシンデレラが魔法を使うって皮肉が効いてると思わない?


 閑話休題。


 旅に出る前にこれだけは言っとこうと思ってこの手紙を書いたのでした。

 私達の初めての出会い、意地悪な姉さん達に命じられて森に生えているよく分からない薬草を取りに来た私に、声をかけてくれて、一緒に薬草を探してくれたよね。

 それからも、姉さん達の意地悪な用事を助けてくれて、一緒に居られる時間は短かったけど、すごく嬉しかった。

 だから素直に感謝してます、ありがとう。

 で終わると、全然素直にならないのかもしれない・・・でも。

 シンデレラじゃなくなった私は正体を明かさない、もしかしたらいまわの際に全部白状するかもしれないけど、まぁこうして手紙に書いてるからきっと言わないと思う。

 だから、大好きな渡り鳥さん、幸せになってね。

 運命の書に全部書かれているんだろうけど、それでもこの手紙を読んだのなら、今よりずっと幸せになって欲しい。

 それだけが私の願いであり、救済と希望。

 あーあ、別人のフリするなら、しゃべり方とか変えないとね、まぁお姫様のフリする何倍も楽だけど、変なしゃべり方してても引かないように・・・ってここで書いても遅いか。

 ちなみに、こうして遺書を書くことも私の運命の書には書いてあるのでした。

 でも思い切りフライングしてるし、書いてあることは全部本心だからね。

 それじゃあ、シンデレラとしての私は今日で終わり、ばいばい。

 寂しくても泣かないでね。




「これは・・・シンデレラの手紙のようだが」


 その手紙のやるせなさに、レヴォル達は沈痛な表情を浮かべる。


「シンデレラだった少女が途中からシンデレラを辞めて別人になる・・・こんな話聞いたこと無いわ」


 しかし、感傷や安っぽい同情心に費やす時間は無い。


「渡り鳥、こいつがこの想区の主役なのか?」


 だから、先ずは本題から解決に向かう。


「じゃあ渡り鳥さんはもう旅に行っちゃったのかな?」


 得られた情報から推理してみても、このシンデレラの想区が極めて異端だということ以外何も分からない。


「いったいどこから俺達の知ってるシンデレラと違うことやら」

「とにかく、こうなったら渡り鳥を探すしかないわ」

「探すって、旅に出てるんだろう?」

「シンデレラの運命の書にも旅の事は書いてある、だったら探せないことも無いはずよ」

「この想区は謎が多すぎる、まずは敵が誰かなのかも把握しないとだな」

「よし、まずは街に行って調査しよう、シンデレラに出会えればそれだけで進展があるはずだ」


 謎だらけの遺書を読んだ一行は、胸に小さな痛みを残しながらも後ろ髪引かれながら小屋を後にした。

 何処かへ羽ばたいた渡り鳥の行方を探して。






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