シンデレラの想区
第1話 二人のシンデレラpart1
「よーやく抜けたああああああ」
そう言って少女は息も絶え絶えに木に腰を下ろす。
前代未聞の長旅故に、誰もが皆疲労していた、故に誰が言うでもなくそこで大休止となる。
前の想区を出発したのは何時だっただろう、沈黙の霧を越え、ようやく、九死に一生を得るが如く、なんとかたどり着いたのだった。
「先ずは食事にしよう、とは言っても、もうこんなものしか無いが、霧を抜けたのなら多少贅沢してもよいだろう」
そう言ってレヴォルは乾物と有り合わせのスパイスでシチューを作り始める。
レヴォル、それが彼の名である。
貴族のように育ちの良さそうな外見をしていて、その実、彼はさる王国の王子として生まれた存在だった。
「水を確保する前から奮発してもしょうがないだろう、俺はいつものでいい」
そんな風に諌めた彼はティム、少しネクラそうな外見をしているが、この集団で一番の常識人であり皮肉屋である。
「ええ~また兵糧、もう硬い干物を何時間も口に入れて噛み続けるのはいや~、レヴォルの料理が食べたい~」
そう言って涙目になりつつ抗議している彼女はエレナ、長い黒髪が目を引く黙っていればとても淑やかな少女だか、彼女の知性はそれとは対照的に、どこまでも純粋で幼いけだった。
「我慢しろおチビ、水がなくなってアレやコレを飲むのは嫌だろ」
ティムはオブラートに包みつつ、最悪の状況の警告をするも。
「まぁ、ここは緑が豊かなところだし、砂漠でもないのだから水に困るってことはないでしょう、それより想区に着いた以上は戦う準備もしないといけないんだから、今日はちゃんとした食事をしましょう」
エレナに負けず劣らず好奇心旺盛で、眼鏡をかけた少女、アリシアがそう発言したことで、ティムは諦めた。
アリシアはティムの上司のような主人のような存在であり、滅多なことでは反抗できないのである。
レヴォルは料理を作る傍ら、コソっとティムに耳打ちした。
「エレナが飲み過ぎないように残量を偽っていたからちゃんと余分な水を使って料理を作っている、問題ない」
食えない野郎だ。
と思いつつも、今回の苦難の行進において、最悪を想定していたのが自分だけじゃなかったことに感心した。
「・・・全く、育ちのいい王子サマの癖に悪知恵が働くもんで」
「うっ、すまない・・・ちゃんと報告するべきだったか」
確かに、誠実そうな王子であるレヴォルには似合わない行いだったが。
「今のは俺なりの褒め言葉だ、気にするな、そのままでいい」
ティムはそれが喜ばしくあった。
そうして、しばらくぶりの温かい食事で団欒を囲んだ一行が、眠りに着こうとしたところで。
「誰かー、誰か助けてー!、誰かー!」
少女の危機を告げる悲鳴が、四人の耳朶を打つ。
「行きましょう、これはカオステラーの気配がするわ」
四人は夜営の支度を即座に撤収し、その場を発った。
静寂の森の中、一人の少女を怪物が追いかける。
少女は美しかった。
長い髪は月に反射して最上級のシルクのように輝き、顔立ちはその美貌で国を滅ぼしたと言われるようなどんな王妃より気高く、そして今なお叫び続ける声はまるで音ではなく音楽を、詩を奏でるように森の中を反響し、その主がいかに尊ぶべき存在かを知らしめる。
この世に神が与えた奇跡、生きる芸術とでも形容するべき彼女。
それになんらかの敵意を持っておいかける複数の
そしてそこに割り込む
「助けに来た、下がっていて欲しい」
そう言うとレヴォル達はそれぞれが持つ本に栞を挟む。
異国の英雄、お伽噺の主役、運命に縛られた魂。
彼らの魂と
蛙の王子、白鳥の姫、小柄な魔法使い、
「・・・本当の空白の書の持ち主はこんな風に変身するのか」
それを俯瞰する誰かは呟く。
今宵の舞踏会の会場、絢爛豪華に設えられた宴席の最上階にて彼女は嗤う。
「招かざる客だけど、彼らの存在が運命を狂わせる、そうなるように、期待を込めてお相手しましょう」
彼女の悲願。
それは何より純粋で、誰より切実で、しかし、ありふれた物。
だからこそ、彼女は狂ってしまった。
終わってしまった物語を始める
しかし、もう立ち止まれないのだ。
狂ってしまった運命の歯車は、世界から切り離されてもなお、延々と廻り続けていた。
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