悶える雨代(あまよ)

 明け方。

 自分のアジト代わりのあばら家へ、半死半生の名留羅を鈴蘭は何とか引きずり込んだ。途中までは意識を取り戻して何とか歩いた名留羅だったが、やはり再び気絶してしまったのである。


 止血と消毒、縫合は済んだ。鈴蘭に着物を脱がされた、包帯の他には手足と腹にサラシ、そしてふんどしを締めただけの名留羅は、今は布団の上で寝転がり、弱い息を吐いている。目を覚ます度に鈴蘭は彼に水を含ませ、薬草を煎じたものを飲ませた。

 体温が下がり過ぎている彼を生かす為に、鈴蘭は抱き付いて布団を二人に巻き付けて暖めた。胸に顔を押し付けて来るのを見て、起きているのかと思ったが、そうではないらしい。やっと血の気が廻って来た程度の青い顔だ。

「……お秋さん……」

 また名を呼んだ。誰の事だろう。

 自分が巻き込んだ事とはいえ、荷物を背負い込んでしまった、と鈴蘭は思ったが、彼がいなければ要らぬ怪我をしていた訳で、彼女は複雑な気分だった。



 鈴蘭は名留羅の外見を見て、体力派とは思っていなかったが、その日の夕暮れに彼は何と目を覚ました。虚ろな目で彼が

「腹が減った……」

とだけ言ったのを聞いて、鈴蘭は何故か嬉しくなり、もらって来た握り飯を、ほぐして食べさせた。


「こっちの仲間に連絡をつけないとな」

と、握り飯を平らげた名留羅は布団の上に起きて、お茶を飲みつつ言った。

「私が言付けを伝えて来ます。あなたはもう少し寝ていて下さい」

 鈴蘭の言葉に、名留羅は両手で湯のみを包み込む様に持つと、決まり悪そうな表情を浮かべ

「でもな……何だか偉そうな口叩いておいてこんなザマで面目ないしさ」

と告げると彼女の瞳を見つめた。

 何だかんだでこの様な至近距離で名留羅の瞳をじっくりと見るのは初めてであったから、鈴蘭は少しうろたえ、頬を染めた。それが彼女を少し素直にさせていたのかもしれない。胸元にきゅっと握った拳を当て、彼女は言った。

「あなたがいなければ私はあの野伏せりの短筒で撃たれて死んでいました。ですからこれはほんの恩返しです。お仲間の方々の旅篭をお教え下さい……」



「名留羅さん、戻って来ないわね……」

と、窓から外を眺めていた雨代が千手丸の耳にそっと囁いた。

「帰って来ないねえ」

 千手丸が、そっと握っている雨代の手の、揃えた指先に口付けをしながら言った。雨代は先ほどまで、窓の淵に片膝を立てて座っていた千手丸に、機嫌悪そうにしながらも後ろから抱き付き、彼の髪を指でもてあそんでいたのだが、ほとんど口を開かなかったのだ。

 まあ、千手丸はそれまで逆に、雨代のもう片方の手をずっと撫でさすり、指をつまみ、軽く揉みほぐし、今している様に口元に持って行って口付けをしたりして、雨代に微弱な快感を与えていた訳だが。

 沙衛門は仮眠をとっていたが、今は湯浴みに出ている。よって、部屋には二人きりだが、雨代は名留羅の事をずっと案じている様で、元服の年齢に至ったとはいえ、まだ少年といっても良い千手丸からは声をかけるのがためらわれたのだ。

「またどっかで女の人にちょっかいでも出してるんじゃないのかな」

 ポツリとそう言った千手丸の背に、彼女は頬擦りしながら

「えぇ……?一寸言い合いになっただけなんだけどな……」

と、そうこぼした。千手丸は憂鬱そうに夜の宿場通りを見下ろしながら言った。

「……ごめん」

「え?ああ、あなたが悪いんじゃないのよ。そうだったらそれはそれで嫌だなと思ってね」

「そっか。なあに? すると姉ちゃんは姉ちゃんで

『一寸とっちめ過ぎたかな』

とか思ってるのかい?」

「帰って来ないからね」

「心配にはなるか」

「うん。

……何か今日は一寸意地悪じゃない? 千手丸」

 雨代は千手丸の方に視線だけ上げて訊ねた。

「別に。ただ、ガキの俺からすると

『何かつまんない事で喧嘩してるなあ』

っていう風に見えたのさ」

「ううっ……そう見えた?」

「まあね」

「ごめんなさあい……」

「別に。何ていうか……嫌いじゃないんでしょ?名留羅の事は」

「そりゃあ、嫌いなんかじゃ全然ないわ。ただ、時々へらへらしてるでしょう、あの人」

「ああ」

「それが度を越している様に見えて、イライラする時はあるかな。今回のはたまたまそれで喧嘩になっただけよ。

 一寸ぶらつくだけだとは思ってるけど……出て行くと思わなかったし」

「そうか。じゃあ素直になってみれば?

 俺から見ても、雨代姉ちゃんは少し硬そうに見える所があるから、正直、時々話し掛け辛いし」

 少年は十代特有の冷たさを無意識に発揮していたが、当然少しも気付いていなかった。

「そうか……ねえ、千手丸も私の事、時々怖いと思ったりする?」

「怖いってのとは一寸違うかな。ただ、

『今話しかけたら何か訳が分からない内に怒られそうで嫌だ』

と思う時はあるね」

 雨代は悲しくなり、彼の身体にしっかりと腕を絡み付かせると、悲壮な声を上げた。

「怒った事あったっけ?」

「ない。でもそういう風に見える時があるって事なんだ」

「……千手丸……」

 千手丸は雨代の腕をそっと解きながら障子を閉めると、不安げな顔の彼女の方に向き直り、下から見上げつつ、妖気を漂わせながら薄く微笑して言った。

「大丈夫、嫌いじゃないってば」

「……ホント?」

 少しため息をつく千手丸。

「あーあ、その可愛らしさを一寸は見せてやんなって。兄ちゃん蹴鞠けまりみたいな扱いで可哀想だよ」

「うん……」

「何だか煮え切らないね。ふう……少しいじってあげる」

「え!?ちょ……」

 すっ、と伸びて来た千手丸の両手が、雨代の両頬の下の辺りを挟み込む様に、触れた。千手丸の『女』の手と、『男』の体温が彼女の中にじわっと浸透する。

 びくん、と彼女の身体が震えた。

「ん、あう……っ!」

 そして気が付くと千手丸の唇が、雨代のそれに重なっている。彼女の幼馴染にして沙衛門の従者であったるいの顔を持つ千手丸にそうされるのは妙な感じがしたが、それを考える余裕を千手丸は雨代に与えなかった。

 左手の人差し指が彼女の耳の中にゆっくりと侵入して、それと同時に口中に千手丸の舌が滑り込んで来た。……思わず声が漏れる。

「んぶっ……ん……」

 男をとろけさせる修行の方もびっちりと叩き込まれた自分が千手丸にペースを奪われそうになっている事に雨代は驚愕した。舌を絡ませて来る千手丸の右手が彼女の頬からゆっくりと滑り落ちたかと思うと、着物の上から胸に触れた。

(うっ……)

 そっとなぞっていた掌が、乳首の辺りを探知すると、そこを暖める様にさすり出す。彼が唇をそっと離すと、雨代が物足りなさそうな表情を浮かべた。

「……ここがいいの?」

「う、うん……」

「……もっとねだってくれないといじらないよ?」

「いや……触って……」

「そう、その調子。

『触ってくれないと嫌』

って言ってよ」

 口調とは裏腹に懇願する様な声と表情の千手丸。

「い、意地悪……」

 雨代の瞳に涙が滲んだ。それを口付けで拭い、舌なめずりする千手丸。

「泣かないで。いじめたいんじゃないんだから」

 そう言いつつ、千手丸の掌は彼女の乳房を撫でさすっている。

「わ、分かった。お願い、触って……じゃないと……やだ……」

「……まあ、いいでしょ。瞳を閉じて」

「うん」

 途端に雨代は荒々しく唇を吸われた。舌が滑り込んで来て、自分の舌を、歯を舐め回す。

「んうっ……!」

 負けじと雨代も千手丸の首に左腕を回し、反対側の耳たぶを指でそっとつまんでいじり始めた。


 帯を解かれ、着物の前を完全に開いた雨代は千手丸の手で片方の乳房を揉みほぐされている。耳たぶを吸われ、雨代は荒い吐息を漏らしていた。

 二人は窓の淵から畳みの上にもつれ合う様に移動すると寝転んだ。唇を離した千手丸の、うわずった嬉しそうな声が、彼女の右耳に流れ込んで来る。

「姉ちゃん……やっぱり可愛いや……」

「せ……千手丸ぅ……」

 雨代の手でめくり上げられた千手丸の着物の下から、雪の様に白い尻がぺろりと出た。通常あるはずの男性器は彼の意思によって今は何処かへ仕舞われている。

 雨代の手がその白い玉の様な尻を撫で始めた。

「んっ……ふふふ……」

 切なげに眉を寄せた千手丸が虚ろな目で微笑を浮かべると、雨代の乳首をちゅぷっ、と音を立てて吸い始めた。乳房を挟む様に手で揉みながら、舌で舐め、歯で軽くしごくと頬を染めた雨代の唇から声が断続的に漏れて来る。

「はうっ……あ、ん……」

 千手丸は雨代の乳首を舐め回したまま自分の手で帯の後ろの縛り目を解くと、腰を少し浮かせてもどかしそうにそれを巻き取りながら、自分の着物の前をはだけさせ始めた。千手丸の豊かな乳房がまろび出る。そして少し日焼けした雨代の肌と、真っ白な千手丸の肌が重なり合い、こすれ合う。

「もっと……お尻、撫でたい」

 雨代のおねだりに千手丸は応え、彼女が撫で易い様に少し上体をずらしてやった。自分の尻に姉の様に慕った娘の手が触れると、千手丸は嬉しそうに目を細め、

「一杯いじってから入れてあげる……」

と、彼女の額に自分の額をそっと付け、瞳を覗き込む様にしてから言った。濡れた唇を再び吸われる直前、雨代は呟いた。

「うん……素直にさせて……」


 あぐらをかいた千手丸の眼前に、うつ伏せになり、尻を浮かせた雨代の秘部があった。その尻を撫でていた千手丸の右手の人差し指と中指が、くちゅくちゅと音を立てながらゆっくりと侵入して行く。

 畳に敷かれた千手丸の着物に頬を押し付ける様にして、雨代は愉悦の声を上げた。

「あ……あーっ……!」

 指が中でもぞもぞと動き始めると彼女の尻がプルプルと震え出す。雨代の頭に巻いている布を解いてやると、彼女の黒髪が肌を滑った。

「は、あん……動かして、千手丸……」

「こう?」

 時間をかけて出し入れのテンポを早くして行く千手丸。しかもちゃんと工夫して時にはねじり込み、彼女の中をしっかりと触診している。

「あ、あ、あん、あっ、あはっ、あ、ああ!うっく、ああ、あ、あ、あうっ、んっ……!」

 千手丸は左手で彼女のクリトリスをいじってやる事にした。指でそこと分かる辺りを何度もなぞってやると、雨代が切なげな泣き声を出した。

「それ、いい……いいようっ……」

「それは何より。あ、でもやめちゃおうかな」

「いや、やめないで……もっとしてくれないと、泣いちゃうよう」

「そ。じゃあいじってあげる」

 千手丸は触診している方の手の動きを突然早くした。

「あんっ!あ、あ、あ、あ、あ、あ、あうっ、あ、ああっ!」

「腰落としちゃ嫌だよ、姉ちゃん」

 わざと千手丸は口調を冷たくしたが、この姉代わりの娘に聞こえただろうか。千手丸の微妙な指使いの作用がもたらす快感を女の部分で受け止め、涙を流して悦んでいる雨代に。

「あうっ、あ、あん……」

「ふふっ……」

 困った様に千手丸は微笑した。


 そこへ襖を叩く音がした。

「まことにすみません、宿の者です。お客様方を訪ねて来られた方がお見えですが」



 その女は鈴蘭と言った。沙衛門も風呂場から戻り、彼女のする話を聞くのに加わっていたが、やはり雨代が一番取り乱した。

「では、名留羅真夜は生きているのですね?」

 口調は緊迫した時のままだが、明らかにうろたえている雨代を見て、千手丸と沙衛門は場違いかもしれないが多少ホッとした。

「はい、何とか命を取りとめました。正直、死んでしまうのではないかと思いましたが、もう少し休めば歩けるくらいには」

 鈴蘭はそう言って微笑んだ。



 その頃。

「へっ……ありがてえ。お見舞いって……事かい……」

着物の上をはだけ、肩で息をしながら、片手剣を逆手に構えた名留羅は目の前の女に呟いた。


……野伏せり達を背後に従えた、大蛇に。

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