魔法ライセンスの見境なし!

ちびまるフォイ

いちばんの魔法はワープしてくるところ?

異世界と現実世界とをつなぐ時空エレベーターができてからというもの、

むやみにトラックに飛び出してくる命知らずがぐっと減った。


一方で、異世界では勇者だの冒険者だのが増えすぎて

ギルドで呼びかければ100人は秒で集まってしまう状態になってしまった。


「ああ、金がない……」


そんな冒険者の過剰供給状態のしわよせは、財布へと打撃を与えた。

まるで依頼がやってこない。


「まずいな……このままほかの冒険者にクエスト消化され続ければ

 一生、道の雑草を食べるだけの生活になってしまう。なんとかしないと」


などとトイレで考えていると、もくもくと煙が見えた。

壁の向こうで誰かが異世界タバコでも吸っているのだろう。


「ちょっと火かして」

「いいよ。ファイア!」


何気ないやり取りが聞こえる。

そのとき、頭の中にアイデアがひらめいた。


おしりに紙を挟んだまま、その足で魔法特許を申請し作り上げた。


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【異世界特許 第1条 火炎詠唱】

火に関する魔法を詠唱する際の魔方陣および魔法は

すべて申請者(甲)が権利を持つものとし、

使用者(乙)は魔法を使う、もしくは使った後に使用料を払う。


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特許を魔法認可させると、火の魔法を使おうと魔方陣出した段階で俺がワープしてくる。


「あの、いま炎を使おうとしましたね?」


「え? ええ、これから料理するので火を使おうかと」


「魔法特許のライセンス料を支払ってください」

「はい?」


特許の用紙を見せて納得させると、主婦から使用料を回収した。

こんなに簡単にお金を得られるなんて思わなかった。


安心したのもつかの間、すぐさま次の現場にワープした。


今度はあたり一面が岩で囲まれているダンジョン。


「だ、誰だお前は!? 今は戦闘中だぞ!」


「そんなことより、ライセンス料をお支払いください。

 ライセンス料を支払わない場合、異世界警察に通報する用意があります」


「わ、わかったよ! 払えばいいんだろ! 払えば!」


冒険者パーティから使用料を回収に成功。

次から次へとワープしては使用料を回収しまくり、財布は一気ににぎやかになった。


「こんな効率的な稼ぎ方があるなんてなぁ。

 ようし、もっともっと稼ごう!」


今度は町の近くに魔物をたくさん召喚した。


魔物の出現に人々は冒険者を招集し、冒険者は魔法を使おうとする。

すると、どこからともなく俺が飛んでくる。


「使用料、お願いしまーーっす!!」


俺の顔を見た人は誰もが嫌そうな顔をするが、そのぶん俺は笑顔なのでプラスマイナスゼロ。

魔物をもっともっと増やして、魔法を使わせる機会を増やしまくった。



が、思った以上にかせげなかった。


「おっかしいなぁ。魔物はちゃんと退治されているのに、使用料はかせげてない。

 みんな魔法使わずに物理ばっかで攻撃してるのか?

 でも、魔法しかきかない魔物を召喚していたしなぁ……なんでだろ」


異世界のことわざで

「スライム出れば桶屋がもうかる」というものがあるのに、そうはならなかった。

納得いかない。


今度は召喚した魔物を追跡してみることに。

いったいどこでどう退治されているのかを確かめなくては。


町の近くで出した魔物は、狙い通り町へと進んでいき、予想通り冒険者たちが迎撃にやってくる。


「でたな魔物め! 生活費のたしにしてやる!」

「キュアアアアアア!!」


冒険者は剣を振りかざした。

切りかかるように見えたが、剣先から魔方陣が出現し火球が敵を焼き尽くした。


「いや、バリバリ魔法使ってるじゃん!!!」


どういうわけか、俺のワープを無効化して魔法を使うすべを得たらしい。

おのれ、なんとこざかしいことを。


我慢できなくなり冒険者の胸倉をつかんだ。


「おい! お前、使用料を払ってないのに魔法を使ったな!」


「どうしてそれを!?」


「さっきからずっと草葉の陰で見てたんだよ! この犯罪者め!!

 使用料を払わないまま魔法を使うなんて人間のクズだ!! ゴミだ!!

 ルールを守れない人間なんてこの異世界に必要ない!!

 お前みたいな奴は異世界監獄の中で更生することなく死んでしまえ!」


俺はすぐに異世界警察を呼びつけた。

制服姿の異世界警察は近くに立つだけで妙な緊張感を走らせる。


「異世界警察です。なにかありましたか?」


「どうもこうもないですよ! この犯罪者を逮捕してください!

 現行犯です! ジャストなう! レッツ逮捕!!」


「具体的にはなにをしたんですか?」

「人として最低のことですよ!!」


「というと?」


「魔法ライセンス料を払わずに魔法を使っていたんです!!!

 そんなことする人間はクズですよ!! 絶対に許せません!!


 すぐに異世界独房に連れて行って、生爪を1枚づつはぎながら

 子供のころに書いた痛い歌詞を読み上げるくらいの罰を与えてください!!

 そうまでしないと、この手のクソ野郎は絶対に凝りませんから!!」


「かしこまりました」


異世界警察は俺の体を逃がさないようにがっちりホールドした。


「あの……? なにやってるんですか?

 俺じゃなくてあっちですよ! 俺を捕まえてどうするんですか!」





「魔法使用料をたかだか1回支払わなかった人と

 モンスター召喚魔法の使用料を支払わずに何度も使った人がいたので、

 先に重罪人を逮捕するのは当然でしょう?」



その後、異世界独房ではリップクリームをまぶたに塗られる拷問がしめやかに行われた。

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