友達

木野々ライ

友達

あるところに、クロという黒髪の少女がいました。彼女はいつも元気いっぱいで、よく男子に混ざり擦り傷だらけで遊ぶような子でした。

 彼女には大好きな友達がいました。それはシロという髪の毛が真っ白の少女でした。

 クロはシロに言われました。

「何で私といるの?」

 クロは笑顔で答えました。

「シロといると安心するの!」

 クロはシロの隣にいるのが好きでした。シロは特に嫌がったりしなかったので、ただ隣に座ってのんびりしているのでした。

 

 そんな二人は幼稚園の時からそんな感じで、いつの間にか高校生になっていました。クロは相変わらず擦り傷だらけで過ごしていました。たくさんの友達に囲まれて、いつも笑いの絶えない日常。けれど、クロは今でもずっと、シロの側にいるのでした。

 ある日クロはシロに言われました。

「楽しいの?」

 クロは笑顔で答えました。

「うん、シロといて楽しいよ!」

 クロはまたシロに言われました。

「幸せ?」

 クロは笑顔で答えました。

「うん、シロといて幸せだよ!」

 クロはまたまたシロに言われました。

「クロはいい子だね」

 クロは答えました。

「うん、クロはいい子だよ!」

 それを聞いたシロはため息をつきました。

「クロは――――だね」

 シロが何と言ったのか、風の所為でクロには聞こえませんでした。

 

 ある日クロはシロの家に呼ばれました。シロには親が居らず一人暮らしです。子供の頃何回かは来ていましたが高校生になってからは初めて。自分の家より綺麗に片付けられた部屋で、クロはシロに淹れてもらったお茶飲みながら寛いでいました。

 

 クロはシロと話していました。

 

 他愛もない話を続けていました。

 

 段々と、瞼が重くなってきました。

 

 クロは抗えませんでした。

 

 どんどんどんどん

 

 深い深い

 

 暗い暗い

 

 眠りの底へと――

 

 

 

 ――次に起きた時、クロは一人でシロの家にいました。いつの間にか辺りは真っ暗でした。シロは何処に行ったのだろう。家中探しても、電話をしても出ません。さらに不可解なことに、シロの家からどうやっても出られないのです。ドアも開かない、窓も開かない、壊すのは…………罪悪感から出来ませんでした。

 クロは怖くなりました。

 クロは寂しくなりました。

 クロは苦しくなりまさた。

 クロは悲しくなりました。

 クロは泣きたくなりました。

 

 

 ガチャリ

 

 

 開かないはずのドアが開く音がしました。誰かがこっちに来る足音が聞こえました。クロは伏せていた顔を恐る恐るあげました。目の前には、シロがいました。

「ただいま、クロ」

 シロは何時ものような口調で言いました。

 

 白い髪を赤く染めて

 

 制服を赤く染めて

 

 真っ黒な目をしたシロが

 

「……どうしたの、その格好」

「どうしたのって?」

「だって、その姿は、まるで」

 ――まるで、殺人鬼のようだ

 

「私は、クロが嫌い」

「……えっ?」

「元気なクロが嫌い、笑ってるクロが嫌い、他の人といるクロが嫌い、家に帰るクロが嫌い、私の側を離れるクロが嫌い、私と一緒にいるとき以外のクロが、大嫌い。だから私は奪った。クロの周りにいる人たちに近づいて、みんなみんなクロから奪った」

 淡々とした口調で、非現実的なことを口にされて、クロは何も考えられなかった。ただ一つ、クロはシロに対して伝えたいことがあった。

「ねえ、シロ」

「何?」

「…………ありがとう」


 

 

 

 ******

 

 

 

 

 あるところに、シロという白髪の少女がいました。彼女はいつも静かで、公園の隅で本を読んでいるような子でした。

 彼女には大好きな友達がいました。それはクロという髪の毛が真っ黒の少女でした。

 シロはクロに言いました。

「何で私といるの?」

 クロは笑顔で答えました。

「シロといると安心するの!」

 シロはクロの隣にいるのが好きでした。クロは特に何かをする訳でもなく、ただ隣に座ってのんびりしているのでした。

 

 そんな二人は幼稚園の時からそんな感じで、いつの間にか高校生になっていました。シロは相変わらず本ばかり読んで過ごしていました。一人教室の隅で本を読み続ける日常。けれど、クロは今でもずっと、シロの側にいるのでした。

 ある日シロはクロに言いました。

「楽しいの?」

 クロは笑顔で答えました。

「うん、シロといて楽しいよ!」

 シロはまたクロに言いました。

「幸せ?」

 クロは笑顔で答えました。

「うん、シロといて幸せだよ!」

 シロはまたまたクロに言いました。

「クロはいい子だね」

 クロは答えました。

「うん、クロはいい子だよ!」

 それを聞いたシロはため息をつきました。

「クロは嘘つきだね」

 泣きそうな顔をするクロに、シロは小さくそう言いました。

 

 ある日シロはクロを家に呼ばれました。シロには親が居らず一人暮らしです。子供の頃何回かは来てくれていましたが高校生になってからは初めて。シロはお茶に粉を混ぜて溶かすと、クロに渡しました。

 

 シロはクロと話していました。

 

 他愛もない話を続けていました。

 

 段々と、クロは喋らなくなりました。

 

 シロは黙って見ていました。

 

 どんどんどんどん

 

 深い深い

 

 暗い暗い

 

 眠りの底へと――

 

 ――クロが眠りについたのを確認すると、シロはクロを自分のベッドに寝かせました。隈だらけの顔、痩せすぎの体型、傷だらけの手足。それをチラリと見た後、シロは外へ出ました。

 夕日が昇りそうな道を進みました。

 シロは学校に着くと、いつもクロの周りにいた人たちを殺しました。クロを虐めている証拠があると脅し、体育館裏に呼び出した彼女たちを、喉を潰した後クロのような擦り傷を身体中に作って殺しました。

 その後、血の付いた制服を脱ぎ捨て、替えの制服に着替えた後クロの家に行きました。着くとクロの両親を殺しました。窓を壊して侵入し、近くにあった鈍器で頭を殴った後、クロのような擦り傷を身体中につくって殺しました。

 

 シロは帰路に着きました。辺りは暗くなり始めていました。人がほとんど通らない路地裏を抜けて、家に着きました。

 家ではクロが震えながら膝を抱えてました。

「ただいま、クロ」

 シロは何時ものような口調で言いました。

 

 なるべく何時ものように

 

 安心してもらうために

 

 普通の口調で

 

「……どうしたの、その格好」

「どうしたのって?」

「だって、その姿は、まるで…………」

 クロは言葉に詰まりました。シロはこの機会にと、クロに文句をぶつけました。

 

「私は、クロが嫌い」

「……えっ?」

「元気なクロが嫌い」

 元気な振りをして傷を隠すクロが。

「笑ってるクロが嫌い」

 涙を隠して笑顔を張り付けるクロが。

「他の人といるクロが嫌い」

 虐めている人間の側に居続けるクロが。

「家に帰るクロが嫌い」

 虐待をしてくる両親の下へ帰るクロが。

「私の側を離れるクロが嫌い」

 辛そうな顔を向けて立ち去るクロが。

「私と一緒にいるとき以外のクロが」

 この世に絶望しながら人と関わり続けるクロが。

 ――シロは大嫌いでした。

「だから私は奪った。クロの周りにいる人たちに近づいて、みんなみんなクロから奪った」

 淡々とした口調で、非現実的なことを口にする。シロはこれでクロに嫌われても構わなかった。それでも、クロは我慢ならなかったのだ。初めての友達の苦しんでいる姿など、見たくなかったのだ。

 だけど、クロは答えた。

「ねえ、シロ」

「何?」

「…………ありがとう」

 

 目に涙を浮かべ、安心しきった表情で笑うクロを、シロはあやすように撫でた。

 


******



髪の真っ白な少女には、親がいませんでした。名義上、親戚に預けられているとなっているものの、その親戚は毎月お金を置いて行くだけでした。

少女はいつも公園にいました。ただボーッと、景色を眺めているだけでした。

「ねえ、一人で何しているの?」

ある日、知らない女の子に話しかけられました。ただボーッとしているだけだと答えると、その子も隣に座ってボーッとし始めました。

二人は毎日そうしていました。シロは何処か安心していました。隣に誰かがいること、それが堪らなく嬉しかった。

少女は女の子に聞いた

「私じゃなくて、他の友達といなくていいの?」

意地悪な質問だった。答えによってはシロはクロから離れようと思った。半端な期待は抱くべきではないからだ。でも、

「いいの! だって私たちも友達でしょ?」

「……とも、だ、ち?」

「うん、友達!」


……ねえ、あなたはもう忘れているかも知れないけれど、私は、あの時、本当に嬉しかったんだ、本当に救われたんだ。


だから、今度は私があなたを守るから。




――とある少女の記憶より



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

友達 木野々ライ @rinrai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る