ムカデとクラゲ

「百足死ね」


 戦闘開始と同時、ヒメカの第一声。それを聞いたアタエは一瞬意味が分からずに僅かな動揺を見せたが、すぐに持ち直した。ヒメカの周囲に出たゲージを見ればそれも必然だった。


 ヒメカの発動。

 H-35-F『マジックスペル』

 呪文を唱えてMPを溜める。MPを100消費して生物を死亡させる言葉を喋る。


 この能力によって唱えられる呪文はあらかじめ決まっておらず、メンター、もしくは少女が自由に設定する事が出来る。ヒメカはあらかじめメンターである百足甚三郎から褒め称える言葉を唱えるように指示されていたが、その命令に逆らってでも百足の事を罵倒する言葉を並べ続けた。


「ゾッとする」「おぞましい」「醜悪すぎる」「ヘドがでそう」


 ひたすら続けるヒメカに対し、アタエもただそれを見ている訳ではない。まずは距離を詰めようと前進、とにかくヒメカの口を閉じるべく攻撃を仕掛ける。


 アタエの発動。

 A-19-R『ファイア-ボ-ル』

 手の平から火炎を纏ったエネルギ-弾を発射する。


 直撃すれば火傷は免れない火炎弾。シンプルだが無視は出来ない。

 『ファイアーボール』の軌道は一直線にヒメカに向かっており、近づいていたのもあって回避するのは難しい。


 ヒメカの発動。

 C-36-B『霊的強化』

 霊をその場に召喚し、その霊の近くにいる程身体能力を強化する。


 その場に人並の大きさをしたムカデの霊が浮かび上がる。空中に留まり蠢く姿は実に不気味だったが、これもメンターの指示によるものだった。とはいえこの能力において重要なのはただの幻影である霊ではなく、近くにいればいる程に増すヒメカの身体能力の方だった。


 百足に守られたような気がしたヒメカは不快に感じながらも

「百足の変態!」

 と、大きく叫び、飛んで来た『ファイアーボール』を蹴り返した。


 足をわずかに負傷したが、見事なカウンターが決まった。更に、『霊的強化』は防御的な意味のみならずもう1つの能力の起点にもなっている。


 ヒメカの発動。

 A-36-R『困憊砲』

 エネルギー弾を放つ。威力は自身の体力を消耗させて調整出来る。


 強力な遠距離攻撃が出来る代わり、自身には疲労が溜まる。だが『霊的強化』によって常人離れした体力を手に入れたヒメカにとっては多少の疲れならばそこまで戦闘に影響を及ぼさない。


 跳ね返した『ファイアーボール』と、身体能力を背景に放たれた『困憊砲』この2つの遠距離攻撃に対し、アタエが取った解答は1つ。


 アタエの発動。

 C-38-G『軟体障壁』

 目の前に透明な軟体生物を召喚する。


 A-I系能力の『バリア』とほぼ同じ効果を有するこの能力は、人1人を守れる大きさのクラゲのような生物を召喚し、盾として扱う事が出来る。その耐久度は高く、ヒメカの放った攻撃は見事に防がれてしまった。だが咄嗟に出したので、更に『ファイアーボール』をヒメカの方に弾き返すという事までは出来なかった。


 ヒメカはアタエをじっと見つめつつ構える。そして口では、百足に対する罵倒を絶え間なく吐き続ける。ちなみに、戦闘の様子はインターネットを通じて百足の自宅にも届いている事をヒメカは知っているが、百足が読唇術を使える事までは知らない。


 アタエは考える。迂闊に近づけば『霊的強化』による格闘攻撃の餌食。しかし時間を与えれば、『マジックスペル』による呪文を唱えきる。そしてヒメカにも『困憊砲』という反撃手段がある為、遠距離での一方的な攻撃は不可能。


 で、あるならばリスクを承知で行くしかない。


 最初のやりとりから30秒が経過し、『ファイアーボール』のインターバルがあけたアタエがついに動き出した。ヒメカは反撃の姿勢を取る。アタエのARMS能力はまだ明らかになっていない。近接で来るか、あるいは再び『ファイアーボール』で来るのか。何としてでも百足に対する悪口を出し切ってみせる、そんな覚悟の表情で迎え撃つ。


 2人の距離、3m。アタエが再び発動したのは『ファイアーボール』。だが、その狙いは先ほどとは違い、ヒメカとはややズレた位置。わざわざヒメカが避ける動作をせずとも当たらない軌道で撃っている。


 アタエの発動。

 A-15-O『生体移動』

 自身と対戦相手以外の生物を対象にし、どこにでも瞬間移動させる。


 手元に召喚した『軟体障壁』をヒメカの背後に移動させる。外れた『ファイアーボール』がまるでピンポン玉のように跳ねて、ヒメカの無防備な背後に直撃する。骨の折れる音と肉の焼ける音。だが、ヒメカは体勢を崩しながらもガードを解除したアタエに向かって『困憊砲』を撃つ。


 これもアタエに直撃。だが、不意を突かれたヒメカとは違い、アタエのガードは間に合った。更にここまで無傷だった事と、既に1発『困憊砲』を撃たれていた事が影響し、片腕の骨折程度で済んだ。


 疲労と重傷の両方を負った身では、あと1分もの間百足を罵倒し続けるのは難しく、アタエにもう1度今の手を使われれば、ヒメカに返せる力は残されていなかった。


 決着。

 アタエの勝利。



 参加メンター

 百足甚三郎様 次元結晶+1(所持数:ー2)

 坤 艮様 次元結晶+1(所持数:6)


 感想

 色々と追加能力が使われています。特に今回はあまり使われない『生体移動』が『軟体障壁』という相棒を得ましたね。ヒメカの方も相変わらずキャラが立っていて良かったと思います。

 本編の方では両キャラが協力している姿を描きましたが、作中時間で言えばそれよりかなり前の戦闘だと思われるので、あえてそこは触れずにガチバトルに徹しました。

 ご参加ありがとうございます。またよろしくお願いします。

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