第14話 いざ、三番街へ!!

「ここがランプの言ってた三番街か」




シオン、アイネ、ノイアの三人は目の前に広がるドーム状の建物を見上げた。


街、というからには多くの建物が連なっているものとばかり思っていた。しかし、実際にたどり着いてみるとそこには代々居座っているかの如くのこの建造物しか存在しなかった。




山を思わせる堂々とした大きさに石を材料とした建築技術は、建物ではあるが、一つの芸術作品を見ているかのようだった。












今から一時間前。


サセッタに入ろうにも何も手がかりがなく行き先を決め兼ねていた三人は、とりあえずランプが最後に言った言葉通りに三番街に向かうことにした。






しかし、すぐ問題に直面する。






「……なあ、三番街ってどこだ」






シオンが率直な疑問を二人にぶつけた。


実はアダルット地区で大怪我を負って丸一日半、眠っていた彼にとっては今自分がどこにいるのかすらも把握していなかった。かろうじて点滴や心電計測器、清潔感のあるベッドから病院らしいところであろうことは推測できていた。








「僕たちも分からないよ」






ノイアの予想外の答えにシオンは眉をハの字に曲げた。








その様子を見てアイネが説明を付け加える。






「私たちがわかってることはここがサセッタの本部であること。そして、この建物はサセッタの医療兼研究開発機関ということだけ。さっきまであんたが早く目覚めないからずっとノイアと交代で付き添っててあげたの。食事も寝床も全部別室を用意してくれてたから、この建物から出なくてもよかったの」




若干語気を強めながらアイネは言った。








「何で怒ってるんだ?」






「どーせ、『丸一日あったにもかかわらず何も状況を掴んでないのか、ふー、やれやれだぜ』とか思ってたんでしょ」






シオンの声真似をしながらアイネは一瞥し言った。






「そんなこと……思ってない、ぞ」




言葉を詰まらせながらも反論はしてみるものの、これでは肯定しているようなものだった。


アイネは畳みかけるようにわざとらしい演技をしながら言う。






「あー、さすがシオン様―! 私たちの心配をよそに現状把握にいそしむその姿勢に感服いたしましたー」






「ごめんて、悪かったよ。そこまで全然気が回ってなかった」






「ふふっ、別にいいわよ」






本気で凹む姿を見て思わずアイネは笑ってしまった。


からかわれていることに気付いたシオンは仏頂面を浮かべる。










「はいはい、そんな顔しない。これでおあいこでしょ」




アイネはそう言って話題を変える。






「とりあえずシオンの体がほんとに治ってるか先生に診てもらいましょ」

















医師の検査を通して得られたのは『異常なし』という結果だった。


三人はランプの言っていたことが真実だったことに驚くと同時に、セリアンスロープ全体としてケガや病気などの外的損傷・感染に関しては治癒能力が人間と異なる説明を受けた。






「じゃあ、セリアンスロープになったヒトは死なないんですか?」








そう医師に聞いたのはノイアだった。


白髭を大量に蓄えた医師は首を横に振る。




「それは違う。セリアンスロープといっても寿命はある。それは普通の人間と変わりはせんじゃろうな。では、何が人間と異なるか、お前さんらは理解しとるか?」






「……動物の特徴を受け継げる?」








そう答えたのはアイネであった。


三人の中で唯一、サセッタの電波ジャックを目撃した彼女はその時の映像を思い浮かべていた。


赤いマフラーを巻いた少女の背中から翼が生え大空に羽ばたいていたシーンだ。


画面に映ていたサセッタの壮年の男も“動物の特徴”という言葉を使っていたことも考えると、アイネのこの発言は理にかなっていた。








医師は伸びきった髭とは対照的に、後退するところまでしきった生え際のない頭をかく。




「うむ、まあ、おおむねその通りだ。君たちはもう『神雫ティアー』を打っただろう? あの液に入っている物質が君たちの体や個性に合った生物の特徴を細胞・遺伝子レベルで再構築してくれるのじゃよ。故にその体はもはや人間ではないため、マセライ帝国がパンデミックに陥れた―――人にしか効かぬウイルス、HKVはワシや君たちのようなセリアンスロープには効かんっちゅうからくりじゃ」






簡単に言うとな、と最後に医師は付け加えた。


おそらく詳しい専門的な言葉は子供相手のため除外したのだろう。なんとも抽象的な説明ではあったものの、要は『動物の力を使える新しい人種』『高度な治癒能力』、この二つを三人に伝えたかったに違いなかった。




アイネたちもこれ以上詳しく聞いても専門知識がない以上徒労に終わると思い、これ以上は言及しなかった。








「それでお前さんら、検査受けてどうするんじゃ。何の異常も見られんが、非戦闘員街にでも行く気か」




「あ、いえ。ちょっとサセッタに知り合いがいて、その人に三番街に行くことをお勧めされて」




アイネが答える。








「ん? おまえさんらサセッタに入る気なのか。てっきり保護目的で来たものと思っとったが、ほうほう これはなかなかどうして。若いのに立派なことじゃのー」






「でも私たち、ここに来てからこの病院から出たことがなくて……。その三番街がどこにあるかわかんないんですけど、だいたいどの位置にあるかだけでも教えてもらえないですか?」






「そんなことか、お安い御用」






医師はそう言って、そばにあった机の引き出しを開け、なにやら探し始めた。


しかし、その机には入ってなかったのか、やがて諦め、「ちょっと待っとれ」 と言い残し五分ほど診察室から出て行った。






「またせたの」






そう言った医師の手に握られていたのは何やら古臭い折りたたまれたパンフレットのようなものだった。ところどころ端が折れており、色がくすんでいる。






「これはサセッタ初期メンバーに配られた本部の詳細が記されとるものじゃ。わしはもう覚えて使わんくなっとるからお前さんたちにあげよう」






「わあ、ありがとうございます!」








「礼はいらぬぞい。この歪められた世界を正しくして戻してくれればそれでいい。ワシでは年を取りすぎてしまったからの」




そう言ってほがらかに笑みを浮かべた。

















三人は地図をもらった後、医師との別れを名残惜しそうに病院を後にした。




その未来へと歩んでいく姿を見て、医師はぼやく。






「三番街か……。そのサセッタの知り合いとやらは随分と彼らを買ってるみたいじゃの」










「三番街って、あの大きな建物しかないとこですよね」




ぼやきが聞こえたのか、そばにいた看護婦が言った。


医師は静かにうなずいた。


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