第13話 年下? いいえ、年上です……なの!

「さあー、私になんでも相談するの! あなたたちの先輩であるこのランプが何でも解決しちゃうの!」






威勢よく先輩風を吹かすランプ。


しかし、アイネとノイアはいまいち現状を理解できないでいた。


そして、シオンはランプに踏まれた股間の痛みを抑えていた。




シオンのうめき声が聞こえたのかランプは顔を向ける。






「なんで痛そうにしてるの?」






気づいてないのか、それともとぼけているのか。


男の痛みを永久に理解することのないであろう少女の何気ない一言がシオンを傷つけた。






「お前が踏んだんだ……よっ!」






体に響かないように声を抑え言った。


その言い方が普段のクールぶっているシオンから想像できないようなもので、思わずアイネとノイアは噴出した。






「お前ら……覚えてろよ」




シオンは二人を恨めしく思った。






ランプはベットの上から軽く跳び地面に足をつける。


アイネは改めて同じ高さに立った少女を見た。




体は三人と比べ一回り小さく、水を連想させるような青い髪色が特徴的だった。


なんともいえない触り心地のよさそうな頬は赤子を彷彿させた。






ここでノイアが疑問に思う。




「君、さっきデヒダイト隊って言ってたよね? サセッタに入ってるの?」




「うん! でも年上に対してため口は失礼なの」






ふくれっ面を浮かべるランプ。






「嘘つけ。どう見ても六歳七歳だろ」






思わずシオンが横槍を入れる。




むっとしたのか、ランプはシオンに近づき肩パンをお見舞いした。


そこまで勢いはなかったもののシオンは慌てて言う。




「俺今骨折してるから」






しかし、ランプは不思議そうな顔を浮かべる。






「ケガしてからもう二日たってるから完治してるはずなの」






何を馬鹿な、とシオンが言いかけたところでようやく気が付いた。




痛みがない。




アダルット地区でのカースとの戦闘の直後は、全身に激痛が走っては気を失う、その繰り返しだった。




手や足があらぬ方向に曲がり、体中から何かが切れる感触があったのをシオンは鮮明に感じ覚えていた。




加えて、おぼろげな記憶の中、駆けつけたデヒダイトが『骨と筋組織がどこもかしこも逝ってやがんな』とつぶやいていたのも聞こえていた。








二日やそこらで治るようなケガではなかったはずだった。




シオンは恐る恐るベットの上から上体を起こす。




「ほんとだ……」




思わずシオンの口から言葉が漏れた。






「どういうこと? 素人目から見てもシオンはかなりの重傷を負ってたはずだけど」






アイネも動揺を隠せなかった。ノイアも驚きのあまり口をぽかんと開けている。




二人にしてみれば、丸一日と半日間 目を覚まさないシオンの傍にいたのだ。苦しんでいる顔を見てきたがゆえに、目の前の健康体はシオン以上に驚きだった。






ランプは狐につままれたかのような光景に戸惑っている三人をみて、ここぞとばかりに先輩風を台風のように吹かす。






「ふっふっふ~。知りたいの? 知りたいよね! しょぉ~がないな~! このランプ先輩が懇切丁寧に一切の不明点も残さずに教えてあげるの。聞いて驚くなかれ、君はセリアンスロープになって回復力が普通の人間と比べて何倍にも上がったってことなの!」






シオンを指さし、どやぁ、と得意げな顔を浮かべるランプ。


今の説明で頭の上にクエスチョンマークを浮かべる三人。






そこにちょうど扉が開く音がした。




ガルネゼーアだった。


ノイアとアイネを護衛した時と同じように、今日もこんがりと焼かれた麦色の肌を惜しみなく晒していた。




健全な少年には多少目の毒である。






「やーっと見つけた、ここにいた。どこほっつき歩いてたのさ、帰るよー」






病室に入ってきたかと思うと、ランプのほかにも見覚えのある顔二人を見つける。




名前を呼んで挨拶をしようと思ったのだろう。


しかし、ガルネゼーアは言いよどむ。顔覚えはいいほうなのだが、彼女はいかんせん名前を覚えるのが苦手だった。




察したアイネは改めて自己紹介をする。








「先日はありがとうございます。改めましてアイネといいます、よろしくお願いします」




それに倣うようにノイアも挨拶をする。




子供に察されたのが恥ずかしいのか、ガルネゼーアは少しほほを赤らめ頭をかく。






その様子をシオンはまたしても横から傍観していた。


自分が寝ている間にいつの間にか、二人ともサセッタの人間と仲良くなっていることにシオンは少しだけ疎外感を感じた。




えーっと、と言いながらガルネゼーアはシオンのほうを見る。


二人からワンテンポ遅れてシオンも自己紹介する。






「そこの二人と同じ孤児院出身のシオンです。助けていただいてありがとうござ―――」




しかし、最後まで謝辞を述べる前に横からランプが割り込んできた。








「むむっ! 何しに来たの、この乳おばけ!」




そういったかと思うと謎のファイティングポーズをとる。


ガルネゼーアはこめかみに青筋を浮かべる。




いつもならここで言動が豹変するのだが、初顔が三人もいるせいかひきつった笑顔を浮かべるだけにとどまった。






「何って、あんたがミーティングの時間なのにいなくなるから、あたしが探しに来てやったんでしょ」




「……どーせならアスシランに迎えに来てほしかったの。お菓子くれるし」




「お菓子ばっかり食ってるからいつまでも幼児体型のままなんじゃないの」




「うっさい! 若作りばばあ」








ガルネゼーアの中で何かが切れた音がした。




それが堪忍袋の緒なのか、はたまた癇癪玉なのか。しかしそんなささいで細かいことはどうでもよかった。




ただ、シオン、ノイア、アイネ、この三人は間違いなくとばっちりを食らっており、かつガルネゼーアその人が切れたという事実だけは共通認識していた。






ガルネゼーアは息をつく間もなく勢いよくランプを羽交い絞めにする。






「あ・た・し・は、まだ28だっつってんだろ!」




「……ギブ、なのっ! ぎぶ、ぎぶ!」






ランプは絞められる腕をタップするもその力は一向に弱められる気配がなかった。


そのまま引きずられるようにして退場していくのを三人はただぼーっと眺めていた。何もできなかったと言った方が正しいかもしれない。






部屋を強制退出する寸前に、ランプは窒息寸前の顔を真っ赤にさせながら三人に向かって言った。






「先輩おねーさんから最後のアドバイスなの! 三番街に行ってみるの!」




「十五、六のガキンチョが何お姉さんぶってんだ! あぁ? 余計なことは言うな! いいからいいかげん観念して戻れ!」








そのまま勢いよく扉が閉められ、二人の声がだんだんと遠くなっていくのが分かった。




三人は廊下から聞こえてくるランプの声の残響を聞きながら、―――いろいろ突っ込みたいところはあったが、―――これだけは間違いなく全員同じことを思っているはずだと思った。






さっきの子、ほんとに年上だったのか……。

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