第12話 ベッドの下からどどーーーん!

「話って何ですか?」




アイネは部屋にのそりのそりと入ってくる巨躯の持ち主に尋ねる。体幹の定まった歩き方や筋肉質なその体つきから、デヒダイトはただそこに存在するだけでかなりの威圧感をまとっていた。




当の本人は全く意識していないのだが、その風格・風貌から初対面の人間や、特に子供などには近づいただけで泣かれてしまう始末だった。




アイネとノイアはアダルット地区での面識がある上にシオンの救出に手を貸してくれたこともあり、動じなかったがシオンは違った。




なにせ死にかけで意識がもうろうとしていたのだ。その時の記憶は朧気なもので細かいことは覚えていない。






そのため、シオンはデヒダイトが部屋に入ってきたときに思わず心の中で




―――なんだこのおっさん!?




と内心ビビッていた。




デヒダイトの服装もサセッタの服ではなく、タンクトップと短パンというかなりパンチの効いた独特のセンスの私服もそれを煽る要因になったのかもしれない。








デヒダイトが傍にいたノイアの頭に手を置きながら話し始める。




「さっきそこの廊下でこの子から聞いたんだが、お前らサセッタに入るつもりらしいな」




シオンとアイネに鋭く双眸を向ける。


先ほどまでの和やかな雰囲気とは一転、室内に一瞬にして緊張が走った。




「今もその話をしてたようだが、子供がのこのこ遊び感覚で入るような組織じゃない。喧嘩の“け”の字も知らんような奴が生半可な気持ちで入ってこられると上手くいくもんも失敗する。レジスタンスである以上、失敗は生死に直結してくる」






デヒダイトはシオンに目を移す。




「今回はたまたま俺たちが駆け付けたからお前たちは生き残ることができたが、サセッタという組織に入り戦うということは常に危険が身につきまとう。その時子供のおまえらは人造人間レプリオン相手に自分の身を守りながら、ためらうことなく敵を倒せるか?」






今までに感じたことのない大人の威圧に、傍にいるノイアは身がすくんでいた。


それと同時にいかに自分が考えなしに、レジスタンスに入ろうとしていたか痛感した。






今回はたまたま運が良かっただけ。ノイアの脳裏にカースのあのおぞましい顔がフラッシュバックする。


アダルット地区で一歩間違えれば死んでいたのだ。アイネとシオンが駆け付けるのがあと一分遅ければ自分は今ここにいないことを想像すると、途端に恐ろしくなってきた。




それと同時に激しい自己嫌悪に襲われた。




孤児院の家族を埋葬した時にサセッタに入ると言い出したのはアイネだった。




アイネの思いを聞き、ノイアもそれに強く共感した。


しかし、今、あっさりと考えを変えようとしている自分に嫌気がさしたのだ。




アイネも同じ気持ちなのだろうか。


ノイアはこっそり様子をうかがった。






アイネはうつむくこともなく、ましてやデヒダイトの圧力ある言葉にもへこんでいる様子もなかった。


いつも通りの彼女がそこにいた。


アイネは言った。






「確かに私は喧嘩もしたこともなければ力もないです。でも今ここで動かなきゃ死んでいった皆はただの無駄死になってしまいますし、きっと私は後悔します」




「後悔……なぁ」




デヒダイトはため息をつきながら言った。




「さっきも言ったが我々は組織で動いている。作戦のために囮になれと言われれば敵陣に突っ込んでいかねばならん。成功させるためには百人の味方を守るために一人を犠牲ねせねばならんときもある。その一人を殺すのは敵の手の時もあれば味方のときもある。お前の言う“後悔”とやらの自己中心的な考えは必ず作戦に悪影響を与える。組織には向かんな」




アイネの意見を退けるようにビシャリと言い放った。


デヒダイトは三人の顔を一通り見た後、出口に向けて歩き出した。


最後に彼は背を向けながら




「小僧の怪我が治ったらサセッタ管轄の非戦闘員用街に行け。未来ある子供が間違っても遊び感覚でレジスタンスに入るなんて馬鹿な真似はするな」




そう言い残しその場を後にした。











デヒダイトが去った後の部屋は静まり返っていた。


アイネはサセッタに入ることに決して甘く考えていたわけではなかった。




どんなつらいことも耐えていく覚悟だった。




しかし、現役の人間と話したことによってまざまざと伝わってきたシビアさや覚悟の重さ。


そして組織に属するということの意味。




全てが自分の想像することができなかったものだった。






ただ、それでもアイネは諦めることができなかった。






「みんなすごく難しい顔してるの。デビちゃんもあんな言い方しなくてもいいのになの」




部屋のどこから小鳥のようにかかわいらしい女の子の声が聞こえてきた。


三人は顔を見合わせる。






「アイネか?」


「違うわよ」


「じゃあノイア……」


「僕も違うよ」






「私なの!!」






にょきっと、シオンのベットの下から勢いよく女の子が飛び出てきた。


そのまま跳ね上がり、シオンが寝ているベットの上にきれいに着地した。




しかし、着地点が良くなかった。


幼女の全体重プラス着地にかかる負荷が全てシオンの局部に収束していった。




「うごっ!」




シオンは白目を剥いて思わずベットの中で体を丸める。 . .


まさに生死を掛けた痛みに耐えるシオンをよそに、ベットの上でポージングをとる赤みがかった髪の色をした女の子。


それを呆然と見つめるノイアとアイネ。






二人の視線に気づいたのか、女の子は自己紹介を始める。




.


「わたしこそはデビダイト隊隊員その3! ランプ! 多感な少年少女のお悩みをパパッと解決しちゃうお姉さん的存在なの!」








身の丈に不釣り合いなだぼだぼのローブをまといながらそう言った。


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