第15話 いけ好かない五人組
サセッタ本部全十五番街のうちの一つ、レジスタンス関係者にのみ進入を許された区域及び建物。
それが三番街に存在するサセッタ特殊訓練施設『コーラル』。
ここでは主にセリアンスロープとしての訓練や模擬戦闘などが行われている。
病院を出てから何度か道を間違えたが、シオン、ノイア、アイネの三人はようやく三番街にたどり着いた。“関係者以外立ち入り禁止”という看板があったにもかかわらず、アイネが「今から関係者になりに行くんだからいいでしょ」と言い、ずんずんと進んでいった。
すると、目の前に今まで見て来た建物よりひときわ大きなドーム、そして扉が見えてきた。扉の上まで見上げると三人で肩車をしても上部には触れそうにないほどである。
シオンは中に入ろうと横向きに付いている取っ手を握り中に入ろうとする。しかし、引こうが押そうがびくりともしなかった。
「ホントにここであってるのかしら?」
アイネはそっとノイアを見る。
ここに来るまでに二回ほど間違った道へ誘導してしまったノイアは慌てる。
「だ、大丈夫だよ! だってほら、三番街『コーラル』ってここに書いてあるもん!」
そう言って、ノイアは地図をアイネのほうに向け指さす。
「そうだな、ここで違いはなさそうだぜ」
そう言ったのはシオンだった。
上を見上げると扉に『コーラル』と文字が彫り込まれていた。
「ほんとだ。でも、なんで開かないのかしら。ランプちゃんが間違えたとか?」
アイネがそういった時だった。
話し声が聞こえたかと思うと、後ろから五人の集団が近づいてきた。男が三人、女が二人。背丈は三人と比べ少し高いくらいだろうか、アイネたちと比べそこまで歳幅がある印象はなく、表情にはまだどこか子供の面影を残していた。
三人の近くまで来るとようやく存在に気づいたらしく、一人が眉を吊り上げる。
近くにいたアイネを強引に押しのけ通り道を確保する。
不意に押されたことで、アイネは尻餅をつき顔をしかめる。
「なにしてんの、邪魔だよ」
扉に近づきながら続けざまにそう言ってシオンを突き飛ばし、取っ手に手をかけた。
それを見たノイアが言った。
「あ、そ、その扉開かないですよ!」
親切心からの言葉のつもりだった。一瞬、五人グループはキョトンとしたのち、顔を見合わせて、大爆笑の渦を巻き起こした。
「おいおい、君たちもしかして開けられなかったのか?」
リーダー格であろう銀に髪が染まっている男が尋ねた。
そしそのまま重力に逆らうように扉を力強く押し上げる。するとどうだろうか、ビクともしなかった固く閉ざされた大理石の扉は、上にスライドされると同時に内側への道を標した。
「扉の開け方もわからないようなキッズは一生ここにいな」
リーダーに付き従う小太りの男がそういって再びその場に笑いが起こった。
後からやってきた五人はそのまま笑いながら姿をドームの中へと消していった。
一部始終を見ていたシオンの中で、大理石という扉を使用することでの“持ち上がるはずがない”という固定観念を砕かれたかのようだった。
「まさか……持ち上げるとはなぁ」
シオンは感心した口ぶりで扉を見上げる。
横向きに付いていた取っ手の意味をようやく理解し、腑に落ちたようだった。
しかし、一方でアイネは少し苛立ってるように見えた。ノイアがそれに気づき話しかける。
「どうしたの、アイネ」
「突き飛ばしたりあそこまで馬鹿にしなくてもいいと思うの。何のうらみがあるのかしら。あっちだって私たちとそうそう変わらない“キッズ”なのに」
嫌味たっぷりに“キッズ”を強調する。
「たしかに僕もちょっと言い過ぎだとおもう……。ねえ、シオン」
「ん? お、おう!」
いきなり話題を振られ適当に思わず同意してしまう。
しかし、内心シオンはどういうわけか、そこまで腹が立ってるわけではなかった。
おそらく、あの炎上する建物の中でカースに煽られた経験があるからだろう。その時に比べたら本当に子供ながらの安い挑発のそれだった。
「ガツーンと言いに行くわよ!」
アイネは息まいて中に入っていく。ノイア、シオンも後に続いた。
☆
建物の中は外観から連想できるものとほとんどズレはなかった。天井には照明や巨大な空調、そして何やらそれ以外にもいたるところに大きな装置が設置されているのがわかった。
唯一、予想外といえるのは殺風景であるということだ。前後左右、そして地面全てが白塗りに染められており、入り口を締め切ってしまうと平衡感覚が正常に機能しなくなってしまうのではないかと心配してしまう。他に色はなく、また機械の類やオブジェ、その他目立つ障害物は見当たらなかった。
中には数十人のヒトがいた。大人からシオンたちのような子供まで様々だった。皆周りを見渡し物珍し気に観察していた。
アイネは建物に入った瞬間、ほんのわずかの間だが、見たこともない単調な異空間に興味を惹かれ、我を忘れた。それはノイアやシオンとて例外ではなかった。
摩訶不思議体験に気が逸れていると、視界の隅で数刻前に会った五人グループもいることが分かった。
アイネははっと我に返って銀髪のリーダー格の男に詰め寄る。
「ちょっと! そこのあなた! 突き飛ばしたこと謝りなさいよ」
青年は呼びかけられたことに気づき気怠そうに顔を向ける。
周りの取り巻きもそれに気づく。
「んだよ、誰かと思えばさっき会ったガキかよ」
「あなたも同い年くらいでしょ! やっていいことと悪いことの区別くらいつかないのかしら」
「邪魔だったから
「だったらまず言葉で注意したらいいじゃない」
「ッチ、るせー女だな」
わざとらしく舌打ちをした後、アイネの胸ぐらをつかみ上げ恫喝するようにささやく。
「なあ、弱ぇやつが何イキってんだ?」
そしてそのままごみ同然のように腕力のみでアイネを投げ捨てる。
硬い地面の上に叩き付けられるかと思われたが、そこにちょうど駆け付けたシオンが済んでのところで受け止めた。
それをみて銀髪の男は僅かだが驚いた表情を浮かべた。
アイネがのどをさすりながら咳き込む。
「大丈夫か、アイネ」
「えぇ、何とか」
シオンは青年をにらみつける。
それを見て取り巻きが横から口を挟む。
そいつは扉の前で捨てせりふを吐いた小太りの男だった。
「おいおい、キッズは余計な茶々入れずにおとなしく家に帰ってろよ。ギンガが怒ると手が付けられなくなるんだからさ。大人だろうが子供だろうが容赦ねえからな」
「まるで三下のセリフだな」
シオンは鼻で笑いながらそういった。
一触即発。
周囲にいた他のヒトは喧嘩が始まるだろうと誰しもが思った。
シオンが、ギンガと呼ばれた青年が、拳を握った時だった。
ドーム全体にアナウンスの声が響き渡った。
その声は訓練されたアナウンスボイスとは真反対のなんとも気の抜けた、そして陽気なものだった。
『やあ、よく来たね。みんな! 僕はアスシラン。デヒダイト隊ってとこに属してるんだ、よかったら覚えて帰ってくれ。さぁて、ここに来た君たちは言うまでもなくレジスタンスに志願した猛者たちだと思う! ほかの会場でも、えーと、なんだ、適性があるかどうかの試験みたいなのが行われていると思うんだけど、まー、いろんな種類がある』
マイクが紙がすり合わさる音を拾う。ドーム全体にいる人は何かの資料を探しているのだろうと察しがついた。
あー、あったあった、というアスシランの声が聞こえてきた。
『えーっと、今回三つの会場に分かれてるんだけど、ここ三番街ではデヒダイト隊とエクヒリッチ隊の監督のもと手っ取り早く“戦闘センスがあるか”を基準に選ばせてもらうよ。周りと両手感覚ぐらいのスペースは開けといてね。下から君たちがすっぽり入るほどの登録カプセルが出てくるから、あとはその中で詳しく説明があると思うから頑張ってねー』
切断音とともにアナウンスが終わった。
いきなりの説明に困惑するものもいれば、静かに目をつむっている者もいた。
しかし、シオン達からしてみれば、ランプの助言に従ってここに足を運んだのであって、まさかここが入隊するための場所でさらに試験など寝耳に水だった。
レジスタンスといわれていらほどなのだから多少の訓練はあるだろうと踏んでいた。しかし民兵がほとんどなのだろうと内心シオンは高をくくっていた。
そのことに関しシオンは動揺した半面、思ったよりしっかりした組織だと感心した。
思い返せば、医療機関や研究開発も行っているとアイネが言っていたことからもその片鱗はあった。
今になって、それを改めて感じ取った。
アナウンスを聞いたギンガは口をにやけさせる。
「ハッ! いいじゃねえかよ。戦闘センスってことは要は喧嘩だろ、白黒つける場を提供してくれるなんざ、さすがサセッタ」
ギンガがアイネに向かって言い放つ。
シオンに抱え込まれたアイネは自力で立ち上がり言い返す。
「暴力でしか力を誇示できない可哀想なヒトなのね、あなたって」
「力がすべてだ、無力な奴は死ぬ。それを教えてやるよ」
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