第7話 ドセロイン帝国の襲撃 [後編]

雨雲が空を覆い、星や月の光が遮られていた。

用意された部屋のベットの上からシオンは空を仰いでいた。





三人は自分の番号が呼ばれた後、奥の部屋に行った。

同様に同じタイミングで呼ばれたほかにも数人も同行した。

薬の投与は全員別々の部屋で行ったのち、個室で一晩安静にしなければならないとの説明を受けた。


その日のうちに孤児院に帰るつもりであった三人は予想外のお知らせであったが、

シオンの「三人でシスターのゲンコツを受け入れよう」という言い分に、二人とも苦笑いを浮かべた。


あらかじめ軍服を着た関係者らしき人が、投与後の安静にする部屋を教えてくれていたため、

三人はお互いの所在地を確認した。


シオンとアイネは同じ三階。ノイアは二階の部屋だった。

建物の東側に位置するノイアの部屋は、正面に踊り場があった。

3人は話し合い、そこで落ち合うことに決めた。

そしてお互いが生きてまた会えることを約束したのだった。






その後、注射器によって薬の投与が行われた。


「拒絶反応はなさそうだね。薬を投与して数分後に眠気に襲われるだろうから、部屋でゆっくりしておきなさい」


そういわれ部屋に行くと、病院と同じようにベッドが用意されていた。

そして、なるほどとシオンは思った。

言われた通り急に眠気がシオンを襲ってきた。

シオンは二人の生存を祈りながらおとなしくベットで横になって眠りについた。





そして目が覚め、現在に至るのであった。


シオンの思っていたよりスムーズに事が運び、少し拍子抜けだった。


「……もっと苦しむものかと思ったけど、特に何もないな」


自分の手を見つめたり、鏡で自分の姿を確認するも、投与以前と姿かたちに何ら変わりはなかった。


唯一の不安要素として、シオンは未だ二人の生存を確認出来ていなかった。

部屋はわかっているのだから、会いに行こうか。



そう思った時だった。



すさまじい衝撃音とともに建物に火の手が上がった。

シオンは急いで飛び起き窓から外の様子を確認する。


見ると下には闇に紛れるような軍服を着た兵士たちが病院に入り来ようとしてくるのが分かった。


シオンにはその軍服に見覚えがあった。


母親やその他の人たちが、助けを求めすがるように人造人間レプリオンになりに来たオーシャン出身の人間を射殺した奴らと同じものだった。


抵抗する気もない人間を平然として殺す。

それがたとえ女であろうと、子供であろうと。

奴らの外道さを体験していたシオンはここから一刻も早く離れなければという思考に切り替わった。



「俺の部屋から一番近い部屋はアイネか……。頼むぜ、適合失敗して先にくたばってんじゃねえぞ」


シオンは急いで部屋を飛び出してアイネの元に向かった。






ノイアは部屋の陰でうずくまって震えていた。


ついさっきまでは適合は成功したとサセッタの軍医らしき人に言われたときは、HKVの脅威から解放された喜びで天にも昇る気持ちだった。


しかし、現在、爆発音とともに大勢の敵兵が入ろうとしている。

再び生命の危機に陥っていり天国から地獄にたたきとされたような気分だった。




「誰か助けてよ~」


大粒の涙をこぼし声をころしながら泣く。


二度目の爆発音が響いた。

同時に、建物が大きく揺れた。



ついに侵入されたか、と思い窓からそっと確認する。



―――とある男と目が合った。

ノイアは慌てて窓から離れた。


ノイアは自分の気のせいだ、と言い聞かせる。


距離が離れているうえに二階の数多くある個室のうちの一つから見てたのだ。


ばれるわけがない。


震えるからだをより一層小さくした。



ノイアは今の出来事を頭から振り払おうとするも、目の合った小汚い男の姿が網膜から離れなかった。

見るからに性格が悪そうな人相の悪い男だった。

指示を出してたところを考えると敵の親玉だろう。



ノイアは少しでもその男の幻影から逃れるため部屋を出ようとしたその時だった。


背後の窓ガラスが粉々に砕け散り、ドスン、と何かが鈍い音を立てて部屋に入ってきた。

その人影がむくりと立ち上がる。


ノイアはそいつがさっき目の合った男だと確信した。



男は、聞く人を不快にさせるかのようなねちっこい喋りでこう言った。


「逃げるなんてつれないね~、よくないね~。遠くから見ても近くからみてもかわいいきみはいったい誰だ~い。よぉし、気に入った。俺の側室にしてあげよう」


そいつは、カース隊長その人であった。



――――――――――――――――――――――――――



「アイネ!」


シオンは勢いよく扉を開ける。

アイネは窓にしがみつきながら外の様子を見ていた。

シオンは彼女が生きていたことにほっと胸をなでおろした。

どうやら適合には成功したようだった。



シオンの存在に気付いたアイネは窓から離れて駆け寄る。


「どうなってるの、シオン。爆発があったと思ったらサセッタとは違う軍服を着た人たちがこの建物に入ろうとしてるし」


「ドセロイン帝国の軍のやつらだ! 早くノイアもつれてここから逃げるぞ!」


シオンはアイネの手を取り早足に部屋を出る。



二回目の爆発音が響いた。

建物が大きく揺れ、シオンとアイネは地面に倒れこむ。

二人が急いで立ち上がると、ガラスの割れるが一つ下の階―――二階から聞こえてきた。



シオンとアイネは嫌な予感がしてならなかった。


「急ぎましょう」


「あぁ」


二人は急いで駆け下りた。



シオンの左の首筋にあざが浮かび上がってきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る