ニートに労働は難しい

マムルーク

第1話 怪しいバイト

 我輩はニートである。

 名前は務色新翔(むいろしんと)。

 今年で19歳になる。平々凡々とした容姿で特技は特にない。

 強いていうなら妄想。宝くじで5000兆円当たったら何かをするみたいなくだらい妄想が好きだ。

 俺は家賃月五万円のアパートに住んでいるが、仕事を辞めたため、二ヶ月家賃を滞納している。

 昨日も大家さんから、「引っ越し! 引っ越し! とっとと引っ越し! ニーコニコ動画! 大家が、家賃滞納の警告をお伝えします!」

 という決まり文句が聞こえた。

 ああ働きたくない。仕事をやめた理由だが、特にない。なんとなく、だるかったのである。

 朝早くに起きて、職場に向かう。

 なんとまあ、難儀な生活をせねばならないのか。俺はずっと寝ていたい。

 働きたくない。誰か国民全員に無限月読をかけてくれ。

 頼む、うちは一族の誰か。働きたくないんだってばよ。


 俺はむくりと起き上がり、パソコンを起動させた。

「バイトでも探すか......」

 ポツリと独り言を呟いた。

頑張ってバイトを探そうとする俺、偉いなぁ。

 こういうね? 働こうとする姿勢、大事だと思うんだよなぁ。

 ん? なになに? 時給五千円のバイト? いや違う! 秒給五千円!?

 なんじゃそりゃ? こんな怪しいバイトに応募するわけ......


 俺は三日後、その怪しげなバイトに向かった。

 内容はなんかの実験を手伝うらしかった。いやぁ、ドキドキするな。

 大きい建物の中に俺は入った。近未来的な建物でワクワクする。何か壮大な実験をするのだろうか。

 受付の向かうとピンク色の髪と服装をした美人が立っていた。

身体にラインがエロい。こんな美人初めて見た。

「あのーすみません......求人見て、来たんですけど......」

 すると、受付の人はにこりとした。

「アルバイトの方ですね。どうぞ、こちらにお進みください」

 俺は奥の部屋に進んだ。広い部屋だった。中には誰もいない。

 案内の人は俺を部屋の中に招きいれると扉を閉め、鍵を掛けた。

「え? ちょっと! ちょっと!」

 俺は扉をドンドンと叩いた。なんなんだ一体。

俺はスマホを取り出したが圏外になっていた。

「バイトに来た方! これからバトルをしてもらいます。目の前に大きな箱がありますね? 中を開けてください」

 突然、女性のアナウンスの声が流れた。先ほどの受付の女性に声だった。

確かに大きなプレゼントボックスがあった。ご丁寧にまるでクリスマスプレゼントのように包装されている。

 中を開けると、CDのようなものが入っていた。これが一体なんだというんだ。

「開けましたか? もうすぐ、ゾンビがたくさん入ってくるので、殺されないように中に入ってる武器を使って戦ってください。生き残ることができれば、給料をお支払いします!」

 な、なんだと!?

 すると、ガチャっという音が聞こえ、ゆっくりと扉が開いた。

「ウガァ!」

雄叫びを上げながらゾンビが中に入ってきた。

 マジだ! 本物のゾンビだ。ところどころ皮膚が腐っている。俺は恐怖で足がすくんだ。ていうか、こんなCD一つでどうやって倒せというんだ。

 さらに、追加で一体、さらに追加でもう二体とドンドン部屋に入ってきた。

「やめろ! くるな!」

 俺は部屋の奥に逃げ込んだが、あっさりと追い詰められた。

「ち、ちくしょう......」

 俺の人生、バチが当たったのかもしれない。俺は、嫌なことから逃げ続けた。すぐ辛くなるとあらゆる困難から逃げ出す。馬鹿野郎だ。

それに楽して金を得ようなんてあまりに虫が良すぎた。

 楽な仕事なんて、この世にはないというに。

 すると、手に持っていたCDが突然、光りだした。

「ふぅー! 出てこられた!」

 突然、褐色肌の頭にツノの生えた黒いゴスロリを纏った美少女が出て来た。

「だ、誰だ君?」

「あーなんだおめぇ?」

 その少女は訝しんだ様子で俺のことを見た。

「うがぁ!」

 ゾンビの手が美少女に伸びて言った。

 すると、美少女はゾンビの手を取り、

「邪魔だおら!」

 一体のゾンビを軽々とゾンビの集団に投げつけた。ゾンビたちはドミノのように倒れ込んだ。

 つ、つよい。この美少女、強いぞ。

「話はあとだ。今はここを脱出すんぞ!」

 美少女にゾンビをなぎ倒してもらいながら、建物の外を目指して進んだ。

「オラ!」

 ゾンビにパンチを入れると、ゾンビの体がバラバラに砕け散った。なかなかグロい。

 吐きそうだ。

「あの、君の名前は?」

 改めて褐色肌のツノ生えた美少女の名前を尋ねた。

「あたいはマリス。妖精族の一人だ」

「よ、妖精族!?」

マリスは全てのゾンビを倒し終えた。

ゾンビの死体がところどころに散らばり思わず目を逸らした。

「お前は誰なんだ?」

「俺は務色新翔。ただの人間だ……き、君は本当に妖精?」

「ああ。あるとき、突然現れた人間にその変なやつに閉じ込められてな。やっと出てこれた」

マリスは俺が持っていたCDのような武器? を指差した。

「これって何なの?」

「あたいにも分かんねえよ。早く元にいた場所に帰りてぇな」

歩きながら話をしていると、受付をした場所に戻ってきた。

「コングラチュレーション。務色様」

美人の受付の女性が拍手した。和かに笑ってるが、目は笑ってない。

「お前……私をへんな道具に閉じ込めやがったやつだな!」

「イエス。お久しぶりです。マリス。務色さま。あなたが持っている妖精CDを渡してもらえますか? 今、給料をお支払いしますから。ここまで戻ってくるのに三分二十七秒。百三万五千円の給料です」

すごい額だ。確かに魅力的だが……

「嫌だと言ったら?」

こんなことをする野郎の言うことに従えるか。危うく死ぬところだったぞ。

「はぁ……大人しく言うことを聞いておけば良いのに。なら、務色様には死んでもらいます。用があるのはマリス。あなただけです」

受付の女性は俺が持っているようなCDを取り出した。

「出でよ。ラピス」

突如、金髪でトンボの様な翼が持った可愛らしい幼女が現れた。頭にはぴょこんと、アホ毛のような触角が生えている。

「満里奈(まりな)。何かよう?」

「ラピス。あの男を殺して、妖精CDを奪い返して頂戴」

ラピスという妖精は俺を凝視してきた。

「分かった」

こくりとラピスが頷いた。

「おい、務色。さがってな。あたいがあいつと戦ってやる」

マリスはボクサーのような構えをとった。


それにしても、高額なバイトに参加したらこんなことになるなんてな。

いい話には裏があるってことか。

「すまない。マリス頼んだ」

俺はマリスの後ろに移動した。





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ニートに労働は難しい マムルーク @tyandora

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