第2週目!
俺の名前は龍ヶ崎セイジ。各地を少しずつ平和にしながら旅をしている流れ者のヒーローだ。
今日も今日とて俺の
「ゲーハハハハハハ! こちらは若返りの水! 1日3l飲むことでお肌ピチピチ、曲がった腰もしゃっきりだよ! ビタミンやミネラルはもちろんのこと、コラーゲンとヒアルロン酸、それからグルコサミンにコンドロイチンも入っているのに、これで薬も飲めちゃう! いまなら1ケース6本入りで10,000円! 10,000円! 本日限りの大特価! ゲェーハハハハハ!」
何ということだ。あいつら大胆にもスーパーの催事場を借りきってやがる!
このままではシニア達の年金が危ない!
彼らには、激務の癖に薄給の親達に代わって孫達に貢ぐという重大な使命があるというのに! そこを渋ってしまったら可愛い孫達とのコンタクトの機会が減らされてしまうかもしれない!
急げ、俺!
シニア達の年金を、引いては、次世代を担う孫達の笑顔を守るんだ!
「――待てぇいっ!」
「ゲハハハハ! 現れたな! しかし既に3ケースはあちらの木下さんがお買い上げだ! おい、チンピラー! 木下さんのポルシェ(スバル・サンバー)に積み込んで差し上げろ!」
「チャース!」
「くそぅっ! 何てことだ! 木下さんは手遅れだったか! しかし、これ以上の被害者を出すわけにはいかない! 変身っ!」
その掛け声と共にブレスレットが光り、一瞬にして赤を基調としたパワードスーツが装着される。
このパワードスーツは右足から胴にかけて金色の龍がぐるぐると巻き付いているというデザインで、俺の左肩を通って鎖骨の辺りにその横顔が到達する。いまにも咆哮を上げそうな勇ましい顔だ。
数年前、悪の組織に家族を皆殺しにされたことで復讐を誓った俺は、金の龍が住むという山に単身乗り込んだ。
龍を恐れて人が寄り付かなくなったその山は荒れに荒れ、登山道なんてものも当然のようにない。肌を切り裂く刃のような草むらをかき分け、毒を持つ蛇やら昆虫やらと格闘し、俺は決死の思いで山頂にたどり着いた。
しかし、残念なことにそこに龍の姿はなかった。
所詮は伝説に過ぎなかったのである。俺みたいなやつが力を手に入れることなど出来ないのだ。
そう思い、何もかもに絶望した俺は、ふらふらと辺りを歩いた。いっそ飛び降りてやろうなんて考えながら。そしてふとぴたりと足を止めた。そこは一部分だけ何かで削り取られたように大きく抉られていたのである。下を見ると、それは蛇行しながら、少なく見積もっても10m以上の長さがあるようで、残念ながらその下は霞がかかっていて見えなかった。気付けば辺りは霧に包まれていたのである。
ここだ。ここで死のう。
そう思った俺は、そこへと飛び込んだ。頭から垂直に。もう間違いなく死ねるだろう。
この山を登るだけで体力も気力も使い果たしてしまっていたし、俺に悪を倒す力を得る資格がないのだとすれば、いっそこの世にいなくても良い。そう思ったのである。
『勇気ある者よ』
そんな声が聞こえた。
いやいや、俺は勇気なんてないんだって。だから死のうとしてるんだって。
『そなたに力を授けようぞ』
アナタ、人の話聞いてました?
俺は山の近くにある小さな町の診療所のベッドで目を覚ました。やけに肉感的な看護師が媚びた視線を送りつつ「あなた、
俺の腕には見慣れないブレスレットが装着されていた。金の龍をかたどったそのエンブレムに触れると金属のはずなのにほんのりと温かく、ドクドクという脈動さえ感じられた。
――生きている。
そう思った。
龍なのか? 俺に力を与えてくれたのか?
心の中でそう問いかけると、『いかにも』という声が聞こえた。ありがとう、君がついてくれるなら心強い。
いえ、こちらの話ですから看護師さん。ですからそこは自分で拭きますし、拭けますし。だいたいこの作業必要ですか?
まぁそんなこんなで俺はドラゴンレッドとしての力を授かった、というわけだ。
古の伝説の龍の割に力の授け方がやけに現代的なグッズに頼っているという部分は一切無視してくれて構わない。重要なのはそこじゃない。
「ゲェーハハハハハ! 現れたな、ドラゴンレッド! かかれ、チンピラー!」
「早速服装を見直したな、良いぞ!」
「チャース!!」
チンピラー達の服装は俺からのクレームを真摯に受け止めたらしく、目出し帽を赤から黒に変え、正しく闇に紛れられるものになっている。うん、これなら例えば真夜中に美術館に忍び込んだりして名画を盗み出すなんてことも出来るんじゃないかな? いや、例えばだから。やれとは言ってないから、俺。
服装の方はまぁ合格だとしても、だ。
あのね、こいつら弱すぎ。
だからそのナイフのようでナイフじゃない凶器未満の小道具は何なの? その銀の部分て何? もしかしてアルミホイル巻いただけじゃないよね? 土台もトイレットペーパーの芯とかじゃないよね?
そりゃあね、正直なところ君達は質より量の使い捨て戦闘員だよ。もう正直に言っちゃうけど。だけどさ、何だろう。もっと個人差があっても良いっていうか。軒並み弱いってどういうこと? 背格好はまだわかるよ? ユニフォームの都合でしょ? でもさ、能力までそろえる必要ある? 人事部何してんの?
「ごめん、ちょっと集合」
「――んなっ?! 何だ、今度は。ちゃんとお前の言った通りチンピラーの服装はだな」
「うん、それは良かった。かなり評価高い、そこは。たださ、今回はそこじゃないんだよね」
「何だ」
「あのさ、戦闘員の教育ってちゃんとしてる? 訓練とか。忠誠心があるのはさ、まだ2回目だけどもうすっごい伝わってきてるんだけど、戦闘力が低すぎる。素手の高校生のが100倍強いし怖いわ。何なら徒党組んでる女子高生の方が怖いわ」
「訓練は各々の自主性に任せている」
「だろうね。そう思ったわ。だとしたらね、彼ら自主性0だと思うよ? むしろきっちり真面目に訓練しててこれならもうクビにした方が良いんじゃないかな」
俺の口から「クビ」という単語が飛び出した途端、チンピラー達の目の色が変わった。目出し帽でもはっきりとわかるほど、焦りの色が見える。いや、もちろん慣用表現だけどね。
「あっ、アニキぃっ! あっしら頑張ります! 頑張りますからぁっ!」
「見捨てないでくださいっ! サギッシーのアニキぃっ!!」
「あっしらアニキのためならこの命!」
あ、やっぱりフツーにしゃべれんのね。結構無理してチャースとか言ってんのね。
「お、お前ら……」
って
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