第7話 楓の過去を知る野球部。そして甲子園が始まる。

 翌日、甲子園までは数日ある。この日は学園での練習をする事に

していた野球部。

 そこには当然マスコミが押し寄せ、不動や矢野も取材を受けるが

中でもやはり注目なのが甲子園初の女性監督になった菫だ。

 菫はたんたんと取材を受けていた。


 そこに遅れて楓がやって来るとマスコミは一気に楓の方に

集中した。

 それを菫がおさえて、練習をする楓達。


「楓君、体は大丈夫なの?」

「なんともない」

「ならいいけど。あれ以外も?肩が痛いとか」

「それもないっす」

「本当に頑丈なんだなキミは」

「表はな」

「え?」

「なんでもないっす」


 楓は不動とキャッチボールをする。それから他の部員はダッシュや

打撃、守備の練習をした。

 楓は一人、ベンチに下がる。菫からひかえるように言われたので

この日はベンチで見学になった。


「楓君、本当に甲子園だね」

「そうだな」

「ねぇまた投げるの?」

「当たり前だ」

「また倒れたら」

「前は倒れてないだろ。意識はある」

「・・・ねぇ本当の事教えて。あの倒れ方、ちょっと普通じゃ

なかったよ。どんだけ動いても平気な楓君があんなに

苦しそうにしてるんだもん」

「誰だって倒れる時はある。人間だからな。俺も万能じゃない

だけだ」

「そうだけど」


 香澄が不安そうに楓を見る。その楓も少し不安はあった。だから

一度病院で検査をする事にした。


「やっぱり負担はあるみたいだな。発作が起きる頻度が

多くなってるだろ?」

「そうだな」

「頭ではなんとも感じてないが、体は緊張をしてるのかも

しれんな。いきなりあんなことを達成させるし、お前自身の

心に落ち着きが追いついてないかもな」

「俺が落ち着いてないか」

「いつも怒りっぽいからなお前はこれはあくまで仮説だが

もっと笑えば心にも負担が減るかもな」

「そんなのは仮説中の仮説だ。それに今更笑えるか」

「ならどうしてお前は野球をやってるんだ。ひまつぶしなのは

わかるが、楽しくはないのか?」

「・・・楽しいなんかない。俺はもう死ぬだけなんだからな」


 楓は怒って病院を出た。成瀬は困った顔をしてため息をつく。


 それから数日後、楓達はついに甲子園についた。ホテルに

荷物を運び、甲子園のグランドに立つ。

 練習する時間は決められている。その時間になり楓達は

甲子園の土を踏んだ。


「本当に来たんだな、不動」

「うん。まさかこれるって思わなかったよ」


 不動と矢野は最初から諦めていた。でも、楓が来て試合に勝ち

本当に行けるとわかったら、二人は誰よりも影で訓練を

していた。

 他の選手も感動しながら練習をする。それも終わり、開会式の

練習も行い、甲子園開始の前夜。楓達はホテルの部屋で

ミーティングを始めた。


「皆、明日が本番だよ。正直私もどうしていいかはわからないわ!

始めての経験だからね。でも、やる事はいつもと同じよ!

それじゃスタメンも言うわね」


 レギュラーが言われるが、最後に菫は楓を言うのをためらっていた。


「朝霧くん、本当に行ける?」

「今更なんすか?」

「・・・ごめんね。あなたの事、先生から聞いたわ」

「!?」


 菫はここに来る前に成瀬に会いに行っていた。そこで楓の事を

聞いたのだ。


「本当なら投げれる状態じゃないのに」

「問題ない!俺の事は何も気にするな。たとえ倒れてもな」

「そうはいかないわ。私は教師じゃないけど、皆をあずかってるの!

それはケガをさせないこともそう。そして、命もあずかってるわ」

「命って、監督朝霧って」

「皆にも話すわよ朝霧くん」

「・・・勝手にしな」


 楓はその部屋を出た。その後、菫が全員に楓の事を話してしまった。


「そんな、あと三年!?」

「うそだろ?」

「あんなに動いてるのによ」

「そうね。でも事実よ。本当ならあの子は入院してないといけない

らしいの。でも、それじゃかわいそうだから彼をひきとった

先生が学校に行かせたみたい」

「だから楓君、いつも暗い表情になってたんだ」

「そうね。誰でも余命を宣告されたら落ち込むしかないものね」

「監督、楓君を投げさせるんですか?」

「皆はどう思う?正直大人の私でも決めれないわ。もし、マウンドで

倒れたらと思うと」

「・・・」


 静まり返る一同。それをやぶったのは香澄だった。


「監督、投げさせてあげてください」

「香澄ちゃん」

「本当はダメなのはわかってます。でも、もしかしたら楓君、投げるのが

楽しいかもしれないから。表じゃ怒ってばかりだけど、でも

楓君だって楽しって思う事はあるかもしれない。それが野球だったら

なおさら投げさせてあげたい」

「そうだね。僕も同じです。監督、僕らが彼の負担を減らせます!

だから投げさせてあげてください」

「俺も同じだ監督」


 部員全員が監督に推薦する。


「わかったわ。ただ、今のあの子が投げてくれるか」

「私が説得してきます」


 香澄は部屋を出て楓の所に向かった。楓は外にいるが電話をし

話を聞いてと言い、ホテル後ろらへんにいると言われ香澄が

そこに行く。


「楓君」

「・・・俺の事は聞いたのか?」

「うん。監督から。皆も聞いたわ」

「・・・」

「大丈夫だよ。楓君、投げてもいいから」

「そうか。でも、もう俺は」

「ダメ!」


 香澄が楓に抱き着く。


「やめちゃダメ。つらいのはわかるよ。でも、せっかくここまで

やってきたんだから」

「お前に何がわかる!?俺はもう死ぬだけだ。その残りをどう

しようが俺の勝手だ!お前には関係ない!!」

「ある!私達は仲間だから。それに」

「!?」

「私、楓君の事好きだから。最初は本当に嫌な感じだなって

思ってたけど、でも、投げてる楓君を見てて、本当にすごいなって

思った。それからどんどん気になって、今は好きになったの」

「ものずきな奴だ。でもな、俺はもう」

「わかってる。だから、本当にその時までは私と楽しくしよ!

笑わなくてもいいから、心の中だけでも笑って」


 楓にキスをし、そのまま抱き着く。楓も初めての事で動揺するが

どこか落ち着ける感じがしていた。

 しばらくその場で愛し合ってから二人は部屋に戻った。


 楓は監督から投げてと言われて承諾する。皆も頑張るぞと

意気込み、盛り上がった。


 そして、とうとう甲子園が始まる。式も終わり、これから

長い一週間が始まる。

 楓達、碧陽は一回戦からのスタートだ。第三試合で登場する。それまでは

その前の試合を観戦する。そうして、二試合が終わり、ついに

楓達が登場する。

 スタンドは満員。碧陽の応援団、学園の生徒と先生が全員集まり

盛大に盛り上げる。

 

 両校の練習が終わり、整列をする。あいさつをしいよいよ

試合が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る