第5話 地区大会スタート!

 そこは見慣れた部屋の天井だった。腕には点滴、そして着慣れた

服。楓はすぐに気づいた。自分は倒れたのだと。


「夜か。確か練習中だったか?ばれちまったかな」


 ため息をつくとそこに成瀬がやってきた。


「起きたか楓」

「・・・皆は?」

「帰ったよ。心配するな。彼女達には誰にでも起こる突発的な

失神だと伝えた」

「それで大丈夫なのか?」

「まぁあとはお前次第だよ」

「そうだな。まぁ気を付けるさ」

「やはり、外には出ない方がよかったかもしれないな」

「それを決めるのは俺だ。そして、結果は最後の時だ」

「わかってる」


 楓はそれから数日入院し、無事に朝練の時に戻ってきた。


「大丈夫なの?楓君」

「大丈夫だ。悪かったな迷惑かけた」

「キミがそんな風に言うなんてね」

「ああ。お前なら見てんじゃねぇとか言ってきそうだったからな」

「悪かったすね。普段ならそうだが、俺自身が迷惑をかけたなら

素直に認めるさ」

「へぇ以外な一面だね」

「うん。でも、こうなると楓君に無理はさせれないんじゃ」


 そう香澄達が話していると監督がやってきた。


「朝霧君、もう平気?」

「心配ない。ついでに試合もできる。あれはただのめまいだ」

「めまいのレベルじゃなかったけど。まぁあなたはそういうからね!

それで、朝霧君の様子も見る感じで、朝霧対決よ」

「本当に大丈夫か?」

「平気っすキャプテン。すぐに見せてあげますよ」

 

 それから各自ポジションにつく。マスコミも当然いるが

これは今まででも見せていて、いつからからこの練習を

朝霧対決と呼んでいた。

 その名の通り、朝霧対他部員全員なので対決になった。


 一人、一人と投げて行く楓。その間もなんともなく不動以外は

全部三振にし、その不動もフライで打ち取った。

 

 授業も普通に行い、昼休みも一年で一緒に食堂で食べる。

 そらからも楓はなんともなく、練習試合もこなし

その度にマスコミに取り上げられ、楓の存在が全国に

知れ渡っていく。


 そんな感じでいよいよ地区大会が行われる週に入った。大会はまだ

夏休み前だが、今の野球部は許可をもらい、午後から練習を

する時もあった。

 それだけ、楓の連続パーフェクトが効いていて、学校もこれまでにない

程の応援をすると言ってくれた。


 そうして、大会前日の夜。この日は時間ギリギリまで練習を

していた。

 

「そこまで。皆集まって」


 監督の合図で皆集まる。


「いよいよ明日だね。今までは正直私も参加できればいいぐらいに

しか思ってなかった。でも、今年は違うね。それも、朝霧君の

おかげだよ」

「俺は何もしてないっすよ。ただ投げてるだけです」

「それが野球には一番大事なのよ。絶対的エースがいるだけで

そのチームは強くなるわ。もちろん、彼一人に任せるわけには

いかないからね。キャプテンや不動君を中心に打つ方も

守る方も皆で力を合わせましょう」

「ハイ!」

「じゃぁ皆、掛け声をしましょうか」

「そんな事今までしました?」

「してないわよ。今回は本気だからね。これぐらいはしないと」

「じゃぁそれはキャプテンの仕事だね」

「お、俺かよ」

「いいじゃない僕らは最後なんだし」

「不動。わかったよ。じゃぁ行くぞ。碧陽野球部、ファイッオー」

「オーー!!」

「って朝霧やれよ!」

「ダサいからいやです」


 楓は腕を組みながらツッコんだ。


 翌日、楓は家で準備をしていた。


「いよいよだね。本当にあんたが部活でも大会に出るなんてね」

「ああそうだな。俺も去年までこんな事思ってもみなかったよ」

「でも、無茶はするなよ。発作は起きてからじゃ抑えれない

からな」

「わかってる。それに」

「それに?」

「なんでもない。行ってくる」

「気をつけろよ」


 楓は家を出た。そのまま球場に向かう。現地集合でそこには

大勢の客と、他の学校の選手達がいた。そして、楓が

現れると全員が注目した。

 すでにマークされているが、楓にとってはなんともない。


 自分のチームの所に向かう。


「朝霧君来たわね。皆は式に出てね。終わってからまた合流よ!」

「ハイ」


 時間になり、開会式が始まる。出場校の選手達が並び球場に

入って行く。ここの地区大会は夏休み前はそこまで客は

入らないのだが、楓の噂を聞いて満席になるまでに埋まっていた。

 おそらく今年一番の注目する大会だ。選手達は球場に

入り、楓達も中に入り並んだ。皆はしっかり手を振って

歩いてるが、楓は普通の状態で歩いていた。


 式が終わり、一度外に出る。楓達、碧陽は一回戦からだ。それは

数日前に行われた抽選会で決まっている。

 一回戦を引いたのはキャプテンの矢野だ。なので不動や楓以外は

緊張をしていた。


「もうすぐだよ」

「ああ、俺はベンチだけどやっぱ高校の公式は違うよな」

「皆緊張してるね」

「不動先輩」

「大丈夫。何回も出ればなれるし、その緊張はずっと持ってて

いいから。それをコントロールできれば立派な選手に

なれるからね」

「ありがとうございます」

 

 人数が少ないので一年も全員ベンチに入っている。なので

緊張して当然だが楓は我関せずだ。

 

「碧陽学園さん時間です」


 呼ばれて中に入る楓達。さすがに夏休み前なのでどちらの

学校も応援団はこないが、その分一般の客が多かった。

 対戦校は先に練習をしている。相手はこの大会で

準優勝をした事がある強敵だ。当然今年は甲子園を狙うが

相手も楓の存在は知っている。

 楓達も練習を始める。楓が出るとざわつく客達。


「あれが連続パーフェクト中のピッチャーか」

「背も高いし、あれなら本当にできそうだな」


 そんな事を言われている楓は不動と軽く投げている。そして不動を

座らせ、少し本気で投げる。

 その球がミットに入ると、その音で球場内が静まり返る。

 何球か投げ、時間になり、全員整列する。あいさつをしついに

地区大会の一回戦が開始する。


 そして、楓が公式の初マウンドに向かう。楓達は後攻から

なので楓がいきなり投げる。

 審判がプレイボールと宣言し、試合が始まった。

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