第3話 楓の初マウンド!?

 碧陽野球部、これまで公式大会の出場は十回、全て一回戦負けの

まさに最弱チーム。

 去年も一回戦で十点以上取られ敗戦。他のチームからも

ここと当たれば一回は勝てると抽選会での逆目玉になっていた。

 

「と、これが今のうちの現状だね」


 そう言ってるのはマネジャーになった柴咲香澄だ。香澄は色々調べ

それを休み時間、食堂で集まってる一年部員の前で話していた。

 もちろん、楓も強制連行されここにいる。


「なるほど。投手がダメだから負けてるパターンか」

「うん。しかも今はその投手がいない。まぁ楓がなって

くれたから無敵だけど」

「バッティングは?」

「三年生の不動先輩。この人だけは打ってるね。というか

一度も三振がないし、からぶりも見たことないって他の先輩達から

聞いたよ」

「なんでこの人ここにいるの?」

「それはわからにけど、だからこの不動先輩と、まぁキャプテンも

打ってるかな。あとは塁を埋めて、点をかせげば」

「勝てる。というか今は一点でも勝てそうだな」


 阿部達は全員楓の方を見た。


「俺は構わんが、俺が全試合げるわけじゃないぞ。監督も

俺以外の投手を育てたいって言ってたから」

「そうだよね。楓が出れない時にどう勝つかだもんね」

「だな。俺達一年じゃまだ、よくて代打ぐらいだろうし」

「そんな事ないよ」


 と、不動が話しに割って入って来た。


「不動先輩!」

「いいかな?ここ」

「どうぞ」

「ありがとう。キミ達も頑張ればレギュラーになれるよ。うちの

監督は実力主義だからね。うまければ一年生でも使うよ」

「そうなんですか。じゃぁ皆も頑張らないとね」

「そうだけど、なれるかな」

「なれるかなじゃなくて絶対なるって決めないとなれないよ!

レギュラーは誰でも自分が一番だと思ってやってるから。どの学校の

選手もね。それぐらいの自信がないとやっていけないよ」

「優しい言葉使いの中にも棘があるっすね先輩」

「まぁ本当の事だからね。キミだってそれぐらいの思いで

訓練してたんじゃないの?」

「俺は違います」

「はっきり言うな」

「じゃぁなんの為に部活に入ったの」

「それは秘密です。あとで嫌でもわかっ!?」

「どうしたの朝霧君」

「朝霧?」

「なんでもない。悪いが先に戻る」


 楓は胸を抑えながら食堂を出た。いそいでトイレに向かい

中に入ってしゃがみこんだ。


「くそっ!収まりやがれ!!」


 発作が起きた楓。いくら楓でもこれは止められない。そして

痛みにも耐えれなかった。

 少ししてようやくおちついてきた。汗をかき、制服が

乱れている。

 

「ったく。この弱い心臓め。まぁ俺が弱いのもあるか」


 チャイムが鳴り午後の授業が始まるが、楓は教室にはいかず

保健室に向かった。

 そこで気分が悪いと伝え、保険の先生にベッドを借りた。

 横になり、楓はそのまま眠った。


「朝霧君」


 誰かが呼んでいる声が聞こえた。目を開けるとそこには

監督の進藤菫と香澄の姿があった。


「よかった目が覚めた」

「?なんだお前ら」

「なんだじゃないよ。もう、放課後だよ。六限目の授業にも

こなかったから心配できたんだよ」

「ああ、そういえばここに来てたか」

「大丈夫か朝霧君。もしかして無理させたか?」

「いや、ただの寝不足です」

「でも、汗かいてるし、お昼もなんか辛そうだったよ」

「大丈夫だ。もう心配ない」


 楓はベッドから起き上がった。そのまま教室に戻り

荷物を持って、部室に行く。

 他の部員達も楓の事を聞いて心配していたが、楓はいつも

通りに返事をする。


 グラウンドに出て、練習を始めるが、楓はベンチに座らされ

今日は動くなと監督に言われてしまった。


 部活終わり、楓は病院に向かう。何かあったら成瀬に報告する

ように言われてるからだ。

 成瀬を呼び出し、病院の隅の方にある部屋に入る。


「発作がおきたのか?」

「ああ。まぁすぐに収まったがな」

「部活をしててか?」

「いや、飯食ってる時だ」

「お前は好き嫌いやアレルギーはない。その発作以外は普通

だからな」

「ああ。まぁ寝てても起きる時は起きる。やっかいな器だ

この体は」

「しかたないさ。今はゆっくりする事だな」

「じゃぁ今日はあんたが料理担当だな」

「さて、出前でもとるか」

「少しは作れ。だから結婚できないんだぞ」

「子供に言われたくないわ」

「言われてるだろうが」


 そんな感じで一応検査?をして家に帰る楓。すぐに着替えて

横になる。

 

「どうすれば楽になれる?どうすれば終われる?」


 楓は寝る時、いつもネガティブな事を考えてしまっていた。


 翌日の朝練には普通に顔を出し、練習をする。その練習は

阿部に自分の球が取れる様に投げるだけだった。

 放課後の練習の時、監督が皆を集めミーティングを始めた。


「さて、今度の日曜日練習試合をします」

「練習試合?珍しいですね」

「ええ。今までは皆やる気なかったからね。でも、今は違うでしょ」

「ハイ!」

「そこでうちのお隣さん、つまり開園高校とね」

「開園か。今までは全敗だね」

「そうね。でも、うちには無敵エースがいるからね。朝霧君

任せていい?」

「どうぞ」

「そういう事だから。あと一年生も準備しといてね。うちは

人数が少ないから、守備でも打者でも使うから」

「ハイ!」

「それであとは」


 この日はミーティングをして解散した。先輩達が帰り、夜に

なったがグラウンドではまだ誰かが居た。


「阿部、いいのか?勝手に使っても」

「監督には言ってあるよ。俺達は残って練習するって」

「そうだな。俺らでも使ってくれるって言ってくれてる

もんな」

「ああ。朝霧もエースなんだ。俺だってレギュラーに

なるぞ」

「よし。俺達一年が全員でレギュラーになれるように

頑張るぞ」

「おう。朝霧だけに目立たせないぜ」


 阿部を始め他の一年がやる気を出していた。


 そうして日曜になり、楓達は街のはずれにありグラウンドに

向かった。ここはこの地区の大会でも使われている公式の

球場だ。

 中に入るとそこには相手の学校が練習をしていた。


 楓達は列を作り、あいさつをした。それに気づいた

相手も返事をする。

 

「じゃぁベンチで準備しててね」


 監督は相手の方に向かった。あっちの監督も出て来て

握手をする。


「今日はよろしくお願いしますね進藤監督」

「ええ。でも、今日はちょっとそちらがやる気をなくさないかが

心配ですね」

「おや。やる気がないのはそちらでしょう。練習試合でも

公式でも」

「まぁね。でも、今年の一年生に怪物がいたんですよ」

「怪物、という事は投手ですか」

「ハイ。それじゃ」


 監督が戻って来て楓達も練習を始める。


「あれが投手か」

「どうしたんですか監督」

「ああ。あっちの監督が今年の一年で怪物が入ったって

言ってたんでな」

「怪物って、あの部にしてはって事じゃ」

「かもしれんが、あの人は嘘はつかない。だから注意は

しておけ」

「ハイ」


 時間になり、両校の選手が並ぶ。先行は相手チームから、つまり

いきなり楓が投げる。

 捕手は不動なので楓の球も取れる。そして、試合が始まった。


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