第2話 エースVS全部員!?

 翌日、早朝だが、楓は早起きした。成瀬の家はマンションで

ちゃんと自分の部屋がある。

 成瀬はまだ寝ているので家の事をする。成瀬と暮らすように

なってから家事を全部する事にした楓。それも成瀬がかなり

だらしない生活をしてるので自分でやらないといけなかったからだ。


 そのおかげで楓は料理も掃除も主婦以上にできるようになった。

 でも、今日から部活が始まる。つまり朝も早く起きて

いかなけれびけないので、ある程度は夜にして朝は朝食だけを

作るようにした。

 成瀬の分も作り、それから出かける。


 学園につき、部室に向かう。そこでジャージに着替えて

朝練が始まるが、楓は別だった。

 すでに完璧な楓は自分で好きに練習することを条件に

この部で投げる事を監督にいったのだ。

 他の部員はとりあえず練習し、楓は素振りをしたりする。

 

 ピッチャーだが、楓はバッターでも打てるのでどちらの

練習も行う。

 

 朝は軽い練習で終わり、教室に行く楓。休み時間は楓は

何かをする事もなく、自分の席で本を読んでいる。

 何週間もすれば新しいクラスでもグループができたり

友達ができるが、楓は積極的にはいかない。やはりまだ

人を信じれないので友達を作ろうとはしなかった。


 そんな感じでいたが、一人の生徒が声をかけてきた。


「なぁ昨日投げたのお前だよな」

「?なんの事だ」

「見てたよ!お前がすげぇ早い球投げるの」

「それで」

「私、柴咲香澄(しばさきかすみ)野球大好き少女だ」


 ショートヘアで明るく声をかけてくるのは柴咲香澄。彼女は

中学でも女子野球をしていたスポーツ少女で、野球が一番

好きな事から、高校ではマネージャーをしたいみたいで昨日は

見学をしていたのだ。


「なら、ソフトでもやってな」

「ここにはないんだよ。だから野球部のマネージャーに

なろうと思ってね」

「ならなればいい」

「感じ悪いな。同じ部活になるんだから仲良くしたいのに」

「悪いな。俺は人が嫌いなんでね」

「じゃぁなんで部活に入ったの?」

「暇つぶし」

「!?そんなんじゃうまくやっていけないぞ」

「それならそれでいいさ。だからお前も、俺にはあまり

関わるな。部活以外ではな」

「そうはいかないよ。私、誰とでも仲良くしたいからさ!

特にキミみたいな性格の子とはね」

「めんどうな奴だ」

「どう思われても、私は私だからね」


 そうして野球少女の柴咲と出会った。放課後、言っていた通り

柴咲は野球部に来て、監督から紹介され、マネージャーに

なり、部員達は喜んだ。

 その喜びはすぐに消える事になるが。


「さて、それじゃ試合しようか」

「試合!?でも、俺達三年と二年で十人。一年も七人しか

いないんですよ」

「大丈夫。試合って言っても成瀬君対他全員だから」

「!?なんですかそれ?」

「つまり、うちの打者全員、成瀬君の球と勝負するの。もちろん

誰かが打ったら打者の勝ち、彼が全員を抑えたら彼の勝ち。そんな

感じ試合だから、打者じゃない時は守備につくだけ」

「監督、いくらあいつが早い球投げても、誰かは打てるんじゃ」

「それならそれでいいわ。これは皆の打撃練習と思ってくれれば

いいから」

「なるほど。彼の早い球を打てれば他の投手の時でも打てるように

なるそういう事ですね」

「そう。さすがうちの正捕手ね」

「でもよ不動、こいつがそんなに投げれるのか?」

「そうだね。でも、前に体力は問題ないって言ってたよね?成瀬くん」

「大丈夫です。まぁその前に俺の球を取れれる奴がいればですけど」

「なら俺が」

「キミにはまだ無理かな。阿部くんだったよね。同じ捕手として

言うけど、まだキミには早いよ」

「不動先輩」


 一年の捕手、阿部達也とこの部の正捕手である三年の不動俊(ふどうしゅん)

がにらみ合う。


「わかりましたじゃぁ見せてもらいますね先輩」

「うん。見ててね」

「じゃぁ捕手は不動君ね。打席の順番が来たら阿部君が変わるって事でね」

「ハイ」

「それじゃぁ矢野キャプテン」

「ウッス」

「今まで通りの打席順でやってくから準備させて。一年生は最後で

その間に打順を決めるから」

「ハイ!よし、全員準備しろ。絶対打つぞ」


 キャプテンの矢野浩二(やのこうじ)が指示を出す。一年は

ベンチで打順を決めている。

 成瀬は不動とキャッチボールをする。


「じゃぁ今まで試合も部活もしてないんだね」

「ああ。部活は初めてだ。こういう事をするのもな」

「そうか。ところでキミのその言葉つがいは聞かない方が

いいかな?」

「ええ。そうしてくれると助かります先輩」

「わかった。さて、サインを決めようか」

「それはいらないです。まっすぐ真ん中に投げるだけだから」

「それで打ち取れる?」

「ええ。できなかったら変えればいいだけですから」

「わかった。じゃぁキミのやりたいようにしてみよう」

「どうも。いい人っすね先輩は」

「それはどうも」


 二人は監督に始める事を告げた。


「じゃぁ始めるよ。私が審判をするから」


 監督が後ろに立ち、打者も打席に入り、守備もポジションに

つく。ベンチには一年と香澄もいる。

 そして、グラウンドの柵の後ろにはそれに気づいた生徒達が

見学をしていた。

 

「それじゃぁ始め!」


 監督の合図で試合が始まる。楓は振りかぶった。そして

体をひねるようにして投げた。そのフォームはトルネード

投法だ。

 そして、その球はあっという間にミットに入る。打席にいる

三年の一番、新井も手が出なかった。


「早い。こんな球、まず高校生じゃ投げれないですよ監督」

「そうね。とんでもないわね。まさか160出てるんじゃ」

「こんどスピードガン買いましょう」

「そうね」


 その速さに全員が驚く。二球目、三球目と変わらない速さで

投げる楓。

 次の二番、三番も連続三振をさせる。当然、ボールも

投げない。全てど真ん中だ。

 それでも打てないのは打者がバットを振るスピードが

遅いからだ。

 そして、四番に回って、不動の番になる。


「じゃぁ頼むね阿部くん」

「了解。でも、打てるんですか?先輩」

「正直無理かな。でも、打ってみたいって思いはあるよ!

だから打つ」


 防具を外し、メットをかぶり打席に入る不動。不動はこの

部の中で一番うまい。他の学校でも四番を打てる程の

実力がある。

 なので、この野球部の中での唯一のホームランバッターだ。


 阿部が楓の元に向かう。


「じゃぁ全部まっすぐの真ん中なのか?」

「ああ。だからお前も真ん中に構えとけ」

「・・・わかった。まずはお前の真ん中を取れないとな!

じゃぁサインもいいな」

「ああいらない」

「わかった」


 阿部が戻り、試合が再開される。そして、不動も左打席で

構える。


 楓は振りかぶって投げた。その球はまっすぐ向かって行く。そして

不動はバットに球を当てた。


「あ、当たった!?」


 他の部員が驚く。


「まぁ真ん中ってわかってたら当てれるだけならできるよ。でも

すごい球だね。手がしびれてるよ」

「じゃぁ空振りしてくれますか?」

「冗談。打たせてもらうよ」

「面白い。前に飛ばしてみな!!」


 楓は投げた。また不動は当てる。前には飛ばないが本当に

狙って当てている。

 それからなんども続き、なんと十球連続で当てている。


 その真剣勝負に最初は応援していた部員達も静かになった。


「しかたない。少し本気を出すか」

「!?キミはまだ本気じゃないんだね」

「ああ。今ので半分ぐらいだ。だから次は20%増しで行くぞ」

「いいね。もっと本気で来てよ。正直こんに熱くなるの

初めてだよ」

「じゃぁ行くぞ」


 楓は言った通り力を込めて投げた。そして、不動がバットを

降る前に球は阿部のミットに入った。

 ものすごいミットの音が響く。取った阿部も驚きの方が

大きく、痛みも忘れる程だった。


「これが本物の球。すごいよ。キミがいれば僕達、甲子園に

行って優勝できるよ」


 不動の言葉に部員達は本気で甲子園を目指せると

思い始めた。

 それから不動を三振にして、キャプテンの矢野も三振。結局

不動以外は全員空振りをし、全て三振で終わらせた楓。


「これが本物の怪物。成瀬君」

「はい」

「うちに来てくれてありがとう」

「!?別に」


 監督に手を握られる楓。監督は普通に美人だ。胸も大きいそんな

人に手を握られたら普通の男子なら勘違いや興奮するが

楓はそこはおさえた。

 そうして野球部員は今までだらけてやっていたが、本気で

甲子園を目指す事を決めた。


 まずは目指せ一回戦突破だ。この野球部はこの地区で

最弱だったからだ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る