余命三年のエース

凍夜

第1話 いきなりエースへ!

 とある場所にある病院。そこに一人の少年がいた。彼の名前は

朝霧楓(あさぎりかえで)。生まれてすぐに親に捨てられ

施設で暮らしていたが、そこで自分は捨てられたと聞かされ

楓は暴れ出し、荒れた性格になった。

 彼をどうするか施設の連中が悩んでいた時、楓が急に倒れた。


 病院に運ばれ、検査するが、その病気がわからない。精神的なもの

とまではわかっているが、治す事はできなかった。

 それから入院生活が始まるが、そこでも彼は暴れ、一度

少年院に運ばれ、そこでも暴れていたが、そこでも発作が起き

何度も倒れてしまう。

 楓は倒れないようにひそかに体を鍛えていた。


 それでも病気は治る事はない。また倒れて、楓は再び入院生活を

する事になってしまった。


 それが中学に上がるぐらいの歳での事だった。そして、そこで

楓はある出会いをする。

 それはここが今までいた病院ではなかったので、知らない

担当の人が自分につくと聞いたが、楓は誰でも同じと思って

気にもしなかったが、その担当の人がやってきた。


「お前か暴れて倒れたバカは」

「!?あんたは?」

「私は女医の成瀬美香だ。思ったより元気そうだな」

「まぁ普段はなんともないからな」

「発作が起きる時だけ苦しいのか。やっかいだな」

「まったくだ。やっぱり死ぬか」

「・・・もしかして自殺しょうとした事あるのか?」

「ああ。何度もな。でも、死にきれなかった。自分じゃ

できない。怖いってのがわかるらしい。今の俺に心配する

ものなんてないのにな」

「そうだな。でも、それを聞いて安心したよ。お前も人の心が

あるんだってな。まだ面倒の見がいがある」

「それはどうも。でもな、俺は誰も信用しないぞ。俺はただ

死ぬだけだからな」

「それでいいさ。今から真面目になる方が難しいからな」

「・・・あんた、本当に医者か?他の奴は綺麗ごといって

残りの人生をどうとか言ってくるんだがな」

「まぁ確かにそうしないといけないだろうが、私はそいつが

そうしたいなら好きにすればいいって思ってる。私の方が

めんどくさいからな」

「面白い奴だ。あんたなら担当でもいいかもな」

「それはうれしいね。まぁ手間かけさせないでくれよ」


 そうして成瀬が担当になり、楓の入院生活が始まった。それから

二年半程が過ぎた頃だった。

 

 成瀬から学校に行かないかと言われた。楓は一度も学校には

行ったことがないからだ。

 

「めんどくさい」

「だろうな。でも、お前は勉強もできる。運動もできるからな!

せっかくだ、最後ぐらい学生生活も悪くないだろ」

「最後、そういえばこの前検査したな。という事は」

「ああ。検査の結果、余命三年だ」

「三年。長いな」

「本当にどうじないな。長いと感じるなら暇つぶしに学校に

行って見ろ。金は私が出してやる。お前の身元も引き受けてやるよ」

「そうだな。病院も暇だしな。いいぜ、学校に行ってやるよ」

「そうか。じゃぁ今日からお前は私の息子だな」

「それはそれで嫌だな」

「我慢しな。そうしないと色々手続きがめんどうだからな」

「わかったよ」


 そうして楓は成瀬に引き取られ、退院をした。もちろん

病院には通う事になる。


 楓は苗字を成瀬に変え、成瀬楓として高校の編入試験を

受けた。色々あるので転校するという項目で高校に

入る事にしたのだ。

 時が経ち、四月になって、楓は高校生活を迎える事になった。


 私立碧陽学園。ここに楓は通う事になった。ごく普通の学園で

通いやすそうという理由で選んだ。


 学園生活が始まって一週間が経った。そこで楓は部活を見学する

事にした。

 暇つぶしなら部活がいいと成瀬に言われたので入る事にした。色々

見てみるが、どれもすごそうには見えなかった。特にだらしなく

見えたのは野球部だった。

 グラウンドには十人いるかどうかの人数で練習する部員がいて

どれもやる気なさそうに見えた。


「これぐらいならちょうどいいか」


 楓は厳しいところよりこういう所を探していた。そして、唯一

興味があった野球部がそうなので楓は入る事にした。

 仮入部ができる週になり、さっそく見に行くと以外にも

同じ一年とみられる生徒が何人かいた。

 その生徒達の前にいるのがどうやら監督らしいがどう見ても

女性だった。


「監督が女なのか?まぁ誰でもいいか」


 楓はそこに歩いて行く。それに監督が気づいた。


「キミも入部希望者?」

「一応。あんたが監督?」

「ええ。私は教師じゃなくて雇われて監督をやってるわ!

進藤菫(しんどうすみれ)よ。よろしく」

「どうも」

「さて、これで全部かな。キミ達は野球部が第一志望って

事で間違いないね」

「ハイ」

「じゃぁ皆の目標を聞かせてもらうわよ」

「目標?」

「そう。それがないとただ野球をしたいだけの集まりだからね!

ここは高校の野球部。目指すところは決まってるでしょ」

「甲子園」

「そう。私は本気で狙ってるからそのつもりでね」

「へぇ意外と本気なんだな。これなら大丈夫か」

「キミ、なんか自信満々な事言ってるけど、どこかで経験してた?」

「いや、俺は部活じたいが初めてだ」

「キミ、名前は?」

「あさ、いや、成瀬楓。そうだな、投手志望だ」

「投手ね。性格は向いてるかもね。投手なら少し生意気な

方が引っ張ってくれるからね」

「はっきり言うな。まぁその方がいいけどな」

「ありがとう。じゃぁ他の子も希望のポジションを聞こうか」


 それぞれ監督に自己紹介をし、ポジションを確認する。投手は

楓だけだった。

 それから監督が好きに練習をしていいと言われ、各自ボールを

持ったりバットを持ったりした。


 楓は一人ボールを持つ。すると、そこに誰かがやってきた。


「よ、お前投手だろ?なら俺と組まないか?」

「お前は?」

「俺は阿部達也(あべたつや)。キャッチャーだ」

「捕手か。じゃぁ俺の球とれるか?とれるなら相手をしてもらうが」

「へぇ速さに自信があるのか。なら取ってやるぜ」


 二人を距離を取った。最初はキャッチボールで軽く投げ

それから阿部を座らせた。


「じゃぁ行くぞ。まっすぐにするから逃げるなよ」

「逃げないよ。来い」


 その光景に他の部員達も見始めた。監督も黙って見ている。

 そして。楓は大きく振りかぶって投げた。


「!?」


 全員が驚愕した。それはものすごいスピードで阿部のミットに

吸い込まれたからだ。

 しかも取った阿部が後ろに倒された。


「な、なんだ今の?」

「どんだけ早いんだよ」

「き、キミ、今何キロ出したの?」


 監督が駆け寄って聞く。


「さぁな計った事ないから知らん」

「い、今のもう一度投げれる?」

「なんどでも」

「キミ、体力は?」

「問題ない」

「・・・じゃぁ決まりね」

「?」


 楓はいきなり監督からエースにさせられた。阿部もその方が

良いと言い、他の部員もそして、先輩達も満場一致で

楓はエースになった。


 これが楓の野球の始まりだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る