弐(3)

 其れでも、肉体が変容していくのと同時に、わたしもようよう自分の在り様が異質なものなのであろうと、知識でなく理解し始めたのでした。相も変わらずわたしの在り処は物語と云う「現実」で御座いました。けれど、年月を経る毎、「現実」の中にだけ生きるのが難しくなったのです。


 必要に迫られて現実に意識を向ける事も増えました。幼少から躾けられた愛想と礼儀もあってか、割り合い、友人の少ない方ではなかったように思います。毎年学級の顔触れは変われども、行動を共にする相手は二、三人は必ず居りました。彼ら彼女らを抜きにしても、声を掛ければ相手をしてくれる子供は幾人も居りましたし、学級が離れても何だかんだと話すような相手も居りました。運動の不得手なわたしは、学校の人気者と称されるような目立つ存在ではありませんでしたけれども、かと云って目に見えて疎まれるような立ち位置にも無かったのです。本好きで少々浮世離れはしているが、愛想と成績は良い半端な優等生。数十人も子供を寄せ集めれば何人かは変わった子供が混ざるもので、わたしが時間を共にするのは自然、そう云った子供が多く、中には疎まれがちの者も居りましたから、彼らと周囲の間に置かれる存在として重宝されていたように思われます。そんな位置に居れば、どれだけわたしがぼんやりと過ごしていようとも、数十人の子供の動向は目に入り、意識せざるを得ません。気付かざるを得ません。


 他人は、他の子供は、着々と「男の子」と「女の子」に分かれ、変質しつつあったのでした。肉体だけでなく、彼ら彼女らは其の精神も「男」と「女」の其れへと変化しつつあったのです。数日前までは何のてらいも無く共に遊び回っていた子供らが、ふとすると話す事も減り、各々「男子」と「女子」の群れを成している。幾人かがそうなれば、学級、学年全体がそのようになっていくのは驚くべき速さでした。避け始めるのは「女子」の方が「男子」より先だったように思います。身体から「女子」に属しながら変わり無く「男子」とも接するわたしは、何時いつの間にか変わり者と成りました。変わったのは周囲の方であったのですが、変化に遅れたわたしは彼ら彼女らの中で「変わり者」と成ったのです。


 ぞっとする程のものでした。意思も無く変化していく己の肉体もそうでしたけれども、他人は自分自身の肉体が勝手に変わっていく事に、何の違和感も疑念も抱いてはいなかったのです。知らぬ間に、しかし一分一秒の途切れも無く、わたしの肉体は、彼ら彼女らの肉体は変質していくのだと云うのに、何も思いはしないのです。肉体の変質に合わせて精神までも変質していくのが当然であるのです。変わらぬ方こそ異質と成ったのです。

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