壱(3)
他人の顔と名を憶えるのが酷く苦手な子供でした。否、今も不得手なのは変わりません。同じ学級の子供全員を憶えるのに、毎日顔を合わせても
学校とは知識を詰め込む場であり、祖母の家は夜までの時間を潰す場であり、自宅とは寝る為の場でありました。其の三つを日々循環しながら、わたしは書物を読み、知識だけを脳に詰め込んで成長していきました。
わたしの一番の友は本でありました。こう
物語を読んでいる間、わたしは自由でした。わたし以外の何者か、時には伝説の剣を携えた王子に、時には偏屈な探偵の助手を務める学生に、時には人の心を
喜怒哀楽、そういった感情が如何なるものであるのかさえ、わたしは物語を通じて識ったように思います。わたしが成った「誰か」が涙を流し胸の痛みに呻くと文に在れば、わたしは投影された苦痛から、其れが悲しみだと憶えました。
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