壱(4)
わたしは自由でした。現実の肉体では決して出来ない、
声の限り叫ぼうものなら近所迷惑だと
重く儘ならない肉体を、制約の多い現実を疎ましく思うようになりました。わたしにとっては、頁さえ開けば、否、意識を傾けさえすれば飛び込める物語の世界の方が、
自分の――自身の心、精神、魂、そういった言葉で表すのが一番近いでしょうか。わたしは自分自身の在り処を、其のもう一つの「現実」だと、幼いながらに定めたのでした。
ただ、「現実」に心を置いたわたしが見る現実は、次第に酷く造り物染みて感じられるようになっていきました。他人は思考する機能を持つ何か別のモノに思えます。決して他人が人形に見えるようになったとか、そういう事ではありません。
肉体と、現実に対するわたしの違和感は、この頃は未だ水に溶いた絵の具のように薄っすらと些細なものでした。子供の
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