壱(2)
現在ほどではないにしろ、共働きの家も
当時は未だ、両親と同じく、公共に仕える身であった祖父も働きに出ており、学校に通う兄も日中は不在でしたので、物心付いたわたしの遊び相手は大概、兄のお下がりだったり近所の小さな本屋で揃えられた学習漫画や絵本、児童書の
炊事洗濯に手を取られる祖母は、今でも地方ではよく有る話でしょうが、近所の同年輩や親類と長々喋るのが好きでしたから、電話でも掛かってくれば一時間、二時間は大声で応対しているのが毎日の事で御座いました。三軒隣の奥方だの裏手に住む奥様だのが顔を出せば、わたしに玄関先で礼儀正しく挨拶をさせ、夕刻まで山と積んだ菓子を
祖母からしても、放っておけば一人で幾らでも勝手に遊んでいる孫は楽だったようで、玩具や無駄紙は常に在るだけ、わたしの手の届くところに置かれていました。庭より先に出る事は禁じられていましたから、わたしは日がな一日、気の向くまま、積み木を崩したり本の内容を書き写してみたり、飽きれば畳に転がって昼寝したり、そのように一人、硝子戸の外が暗くなるのを待っていました。季節によって簾の影だったり炬燵の中だったりと昼寝の場所が変わる程度で、兎に角日々の繰り返しでしたから、わたしの記憶の曖昧さ、其の意味脈絡の無さも道理と云うものです。
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