壱章
壱(1)
わたしたちが生まれたのは、恐らくは此の国にとっては冬にあたると思われる時代でした。高度経済成長だ、バブルだ、氷河期だ、そんな抽象的な呼び名は、何時だって其れが
其のほんの数年前まで、此の国は夏の時代であったと聞いています。金が溢れ、価格が跳ね上がった都市の土地には次々と高層建築が建ち並び、人々は酒と高級食材と栄養剤を流し込みながら、夜通し踊って朝になる。無論、一部の誰かの話に過ぎぬとは識っているのです。当時にも貧困は在った事でしょう。地方にはクラブもディスコも無い町も山と在ったでしょう。けれど少なくとも、誰も彼もが此の国の先行きを絶望するような、そんな時代ではなかったのだろうと思います。
わたしたちが聞く当時が、限られた、真に華やかな部分だけを切り取ったものに過ぎないとしても、少なくとも――其の後の転落を
わたしたちが生まれたのは、そんな夏が瞬きの間に過ぎ去ってしまった。実りの秋すらも無いままに、人々が呆然と
時代が冬でも此の国に四季は
幼い頃の記憶と云うものは、……否、此の数年、数ヶ月に及ぶまで、わたしの記憶は、正直なところ、はっきりとしたものは多くはありません。極めて断片的で、夢か
だからわたしが思い出せるのは、建て替えられて今は無い祖父母の家の和室に
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