第五十九話:二人の母娘

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「だいぶ長い時間、眠っていたんですよ」


そう女性は私に話しかける。


優し気な声だ。私を気遣ってのことだろう。


「…わたしは」


「ああ、ご無理をなさらずに。まだ安静にしていてください。ひどいケガだったのですから。お身体に触りますよ」


そう言って、ベッドの方に近づいてきて、少女の頭を撫でる。


「駄目よ迷惑かけちゃ。お姉ちゃんは大変なんだから」


「迷惑かけてないよ!わたし、良い子だもん!」


「はいはい」


頰を膨らませ駄々をこねる少女に微笑みかけて、それから私の方へ視線を向ける。


「…あなたたちは」


身を起こそうとするが、思うように身体に力が入らない。


「無理しないでくださいね。まだ目を覚ましたばかりなのですから」


起き上がろうとする私を制止して、優しく身体を支えながら、横になるように促される。


「聞きたいことも山ほどあるでしょうけど、まずは美味しいものを食べて、体力を付けないと。今、用意するから、ちょっと待っててください」


立ち上がり、外へ出て行こうとする。


少女は相変わらず、私の方を興味津々の様子で見ている。


「こら、悪い子にはご飯はあげませんよ。ミルは、良い子にできるかしら?」


「ええー、できるよ!ミル、良い子だもん!!」


二人は母娘なのだろうと思う。


そのやり取りも、日常的であるかのように、どこか微笑ましく映る。


「良い子は、ちゃんとお手伝いしてくれると思うんだけどなあー?」


「お手伝いする!できる!ミル、良い子!」


そう言って、二人揃って部屋の外に出て行った。


少女の名前は、ミルというらしい。

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