第六十話:温もり
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次第に痛みも落ち着いてきて意識がはっきりしてくると、周囲の様子を把握できるぐらいにはなってきた。
てっきり洞窟の中だと思ってたそこは、自然の地形を巧みに利用して作られたログハウスのようだった。
どうやら自然で開放的な造りから、勝手な思い込みをしてしまっていたようだ。
それなりに年季があるようで、最近建てられたものではないと思う。
それから程なくして、二つの足音が近づいてくるのに気づいた。
一つは慎重でどこか不安げな子どもの足音で、もう一つは相手を労わるように歩調を合わせた温かい足音。
そして同時に、甘く香ばしい匂いがしてくる。
「お姉ちゃん、これ食べて元気になって」
ミルが温かいスープを運んできてくれた。
一瞬スープをこぼしてしまわないか心配になったが、小さな両手で椀をギュッと握って、落とさないように集中していた。
「ありがとう」
椀を受け取り礼を言うと、ミルはやり切ったような表情をして、どこか得意そうだった。
「ミルも手伝ってくれたんだよね」
女がふかした芋とカットした果物を持ってやって来た。
「村で取れた野菜を使ったスープとお芋、それに疲労や傷付いた身体によく利く果物をお持ちしました」
「お姉ちゃん、わたしがね、わたしがスープをよそったんだよ」
身を乗り出して、スープを早く飲んで欲しいと、全身で訴えていることが分かった。
一口スープを口に運ぶ。
美味しい。
木の実や根菜、薬草のような葉が入っていたが、全然青臭くなく、焼き色のついた鶏肉から出たジューシーな脂が、食欲をそそる。
全身にエネルギーが漲る感じがする。
「お姉ちゃん、美味しい?」
「うん、とても」
少女に笑いかける。
「気に入ってもらえて良かったわ。今ご用意できるものはこのぐらいですが」
「どれも栄養価の高いものばかりなので、後はしっかりお休みになれば、じきに良くなりますよ。この村では薬としても重宝されている食材なんです」
女からふかした芋をいただく。
見た目は素朴だが、ホクホクしてて、お肉のように厚くて頬張りがいがある。これも絶品だ。
「沢山ありますので、ゆっくり食べてくださいね」
女が温かく微笑む。
剣と血が交わらない世界。淀んだ空気、価値観が存在しない綺麗な世界。
そんな世界を夢見ていた。
私は、今は、このささやかで、穏やかな時間に、ただ触れていたかった。
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