第五十話:分断

1


「…きて…」


「…起きて、ラトさん…!」


揺さぶられる感覚があり、目を覚ました。


眠気は束の間、暗闇の中、声の主を捉える。


「ん…?シュカ…?」


顔をこわばらせたシュカが目の前にいる。


「ミラさんが、すぐ準備をと…!」


そう告げる新人を見て、異常を感じ取る。


装備を確かめ、すぐさまテントの外へ出る。





周囲を見渡す。まだ夜は明けていない。


大木の陰に身を隠す影を捉える。身を屈め、なるべく物音を立てずに近づく。


「何があった?」


後ろからシュカが続く。


「…何かが私たちの後を付けていた…。つけられていたみたい」


悪い報せであることは分かっていた。どうやら団体様のご到着のようだ。


「…数は?」


「暗闇で正確な頭数は分からない…。でも、少なくとも10はいる…」


「距離は100mぐらい…。近づいてきている」


「厄介だな」


テントを片す時間も無しか。


「…どうするんですか…!?」


「…迎え撃つか?」


「危険」


「じゃあ、どうする?」


「…私が敵を引き付ける。この状況なら、暗視スキルがあるシーフの出番」


後ろを振り返らずに応える。


「その後は…?」


「なるべく、戦闘は避ける。どんなモンスターが出てくるか想像できない。この状況を回避することに専念」


「分かった」


震えるシュカの肩に手をかける。


「来い、シュカ、離れるな」





敵が近づいてくる。テントを視認していることは間違いないようだ。


ミラが動き出す。


ここは彼女に任せる。


ギャアアアアアアア!!!


刹那、悲鳴が暗闇に響き渡る。敵のうちの一匹を殺ったようだ。


今度は怒声と下品な罵声が静寂を打ち破る。


その影が一斉にミラの方へ向かう。


敵はこちらには向かって来ない。気づいていないようだ。


この隙に、一旦この場を離れる。


「…ミラさんが…!」


シュカが後ろを振り返る。


「大丈夫だ」


ミラはシーフ。暗視スキル持ち。俊敏な動きで敵をまく。

パーティメンバーを信じなくてどうする。それよりも…。


…どうやら、こちらも歓迎してくれるらしい。


テントの背後に回り込まれていたらしい。

複数の影が目の前に立ちはだかっていた。


影自体は大きなものではない。むしろ小柄だ。

暗闇でよく見えないが…。


作戦では、なるべく戦闘を回避するということだったが、どうやら不可能だ。

しかし、敵の分断には成功している。この数であれば、俺がなんとかする。


「さあ、来い!!」


鞘から剣を引き抜く。よく手に馴染んだそれは、俺の緊張やら不安やらを一瞬で拭い去る。見かけにだまされるな。切れ味は悪いが、殺傷能力は普通の剣と何も違わない。多少、みすぼらしいだけだ。


グアアアアアアッッ!!!


奇声を上げ、襲ってくる。


飛びかかってきた。


一瞬、月の明かりが敵の影を照らした。


予想はしていた。


昼間見た、糞ったれなゴブリンだった。





グアアアアアアッッ!!


ゴブリンは三体いた。


意識ははっきりしている。俺は、冷静だ。


飛びかかってきたゴブリンの攻撃を錆びついた剣で受け、そのまま地面に叩っ斬る。

骨が砕けたような感触があった。


まずは、一体。


次に肩に飛びついてきたゴブリンを振り落とし、剣の先で突き刺す。血が噴き出したが、別に動揺などしない。


二体目。


こちらの勢いに若干たじろぎ足を止めた三体目は隙がある。戦場で敵意が揺らぐ瞬間は命取りだということを死でもって教えてやる。


ゴブリンが持つ棍棒を剣でふき飛ばし、無防備になった身体を頭部からぶっ叩いてやった。奴等が死に際に放つ言葉は何を意味するかは分からない。しかし、苦しみと憎悪に満ちていることは伝わってきた。殺るか、殺られるかでしかない。


これで三体目。


「いくぞ!シュカ!!」


「…は、はい…!!」


シュカの手を引き、テントを抜けて、後方へと駆け抜けた。

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