第三十八話:朝の風景
「らっしゃい」
カラン。冒険者がよく利用する手頃な店に入る。
朝一でもないが、冒険者の朝は早い。
店は出立前の冒険者たちで結構賑わっているようだ。
とりあえず適当な席に座る。
今朝は一層腹が減っている。余計な気を遣い過ぎたのかもしれない。
「ボア肉のバーガーとキコの実サラダ」
給仕の女に注文する。
先日の襲撃でボア肉が大量に出荷されたようで、グラム数当たりの値段がだいぶ下がったようだ。
値段の割にボリューム満点で腹持ちがいいから、冒険者は好んで食べるらしい。
まさしく市場価格の好例だろう。
「わあー、これおいしそうですね!これもいいな!うーん、これも食べたい…!」
メニューを見ながら迷っている。
道すがらカルミの実を頬張っていたはずだが、まだまだシュカの胃袋には空きがあるようだ。
目配せすると、何を受け取ったのか微笑みながらこれとこれとこれ!、といくつか注文した。
出立前にそんなに食べるのか…。
半ば呆れていたのも束の間、思い出したかのようにシュカが声のトーンを落として聞いてくる。
「ミラさん、どこにいるのでしょうか?」
さて、それは俺も困った。
実を言うと、ミラが普段どこに住んでいるのかもよくわかってない。
この世界の通信手段は魔法を介した方法が一般的だ。
魔法を介すと言っても、他人の意識に干渉して簡単なやり取りをする。
以前魔法使いに聞いた話では、個々人が使う魔法にも千差万別あり、アウラに若干の違いがあるので、それを媒介にするとのことのようだった。
たいていのパーティには一人くらい魔法を使えるやつがいるから、当たり前過ぎて意識されることでもない。
ただ、俺みたいな単独で行動していた者にしてみれば話は変わり、そもそも通信をする相手がいないものだから、いざパーティを組んだところでそれを考えたことも無かった。
剣士が一人とシーフが二人。
襲撃の際には考えたことも無かったが、パーティのバランスとしては良くはないな。
確かに、ボアぐらいなら、そこまで連携を意識せずに戦えるが、現今のノラ街、王国にとってはより大きな脅威に対抗することを考慮しての新人教育だ。
ギルドもその辺りを組んで新人を配置して欲しかったが、そんな戯言を言っている状況でもない。
どういった意図で、一体誰の仕業であの大群が押し寄せたのかは謎だが、不測の事態に対応できるように準備しておかないと、いつ絶命するかも分からない。
それは今になって始まったことではないが、今回は特別に気を引き締める。
「ラトさん…?」
シュカが顔を覗き込んでくる。
「なんでもない。さ、飯を食ったら一旦ギルドに行こう。ミラもそこにいるだろう」
なんの根拠も無いが、適当なことを言って誤魔化す。シュカは首を傾げる。
「そうですね」
「お待たせしましたー!ボア肉のバーガーとキコの…」
料理が出来上がったようだ。
うわあー☆
シュカの目が輝いている。口元から涎が垂れ落ちるのではないかというぐらい、いい表情をしている。
まったく腹が減ると余計なことを考えてしまう。何かが足りない感覚を思考で補おうとするのだろうか。それによって満腹感とかが得られるわけではないのだが。
「いただきます!!」
シュカが美味しそうに料理を頬張っている。
可愛い奴だ…。
俺は、徐にナイフを動かし始めた。
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