第三十話:制圧
荒くれどもが集うノラ街の冒険者は、この程度のものなのか。
骨のある奴等が多いと思っていたのだが。
私の見立て違いだったか―
少しこけた頬と若干疲れ切ったような眼。
戦場の最中、白銀のような立派な髭を触りながら王は思考に耽る。
王直下のルースの兵士が巨大なボアと戦闘を繰り広げる中、どこか場違いな雰囲気を漂わせている。
端から見ればやけに冷静に落ち着いてみえる。
グサッ。
キンッ。
ギャアアッ。
モンスターと兵士が殺り合う。
牙と鉄製の剣とがぶつかり合う音が響く。
ボア程度で我がルイスの兵士が苦戦することは無いが、戦闘の一端は膠着している。
初撃こそは敵の隙をつけたから良いものの、巨大なボア相手では流石に兵士では対応が困難だ。
その点、モンスター相手では冒険者の方が戦闘に長けている。
対人戦闘には無い独特の間合いを冒険者は身をもって実感している。
狩って初めて、生きるための金が稼げる。
冒険者になった目的は一人ひとり違えど、金がなければ自由な生活が出来ないことは皆同じだ。
地位ある者は、選ばれなかった者に、成果に見合うだけの金をくれてやるだけだ。
冷たい眼差しで王は戦場を見つめる。
(…中々手強い奴だ)
戦闘は膠着している。
ルースの兵士がボアの隙をつき、一撃を与えたまでは良かった。
その後は兵士と冒険者とが交錯する形でボアと対しているが、戦況が中々好転しない。
チッ。
剣を握る手がズキッと痛む。
流石に強烈な突進を交わしながらの攻撃は負担が大きい。
ミラもだいぶ体力が削られているようだ。
…そろそろ、決着をつけなくてはならないな。
側面の一点を集中的に攻撃し、固い皮膚を貫通させ、急所をつく。
デカイだけで、こいつも普通サイズのボアと変わらない。
ミラに指示を出す。
無意識のうちに呼吸を合わせる。
なぜだろう。
戦闘の中で自然と息が合うようになってきたように感じる。
兵士たちが苦戦する中、俺とミラで素早く距離を詰める。
両腕を剣で攻撃する。
もちろん、これはフェイクだ。
「ミラ!」
「はい!!」
ボアが怯んだ瞬間を見逃さず、ミラが素早く腕の隙間からボアの下に潜り込む。
いかに固いボアの皮膚といえども、喉元と腹回りは若干皮膚が薄い。
「ンンッ!!」
ミラが剣を突き刺す。急所には程遠い。だが、それが狙いだ。
ギャアアアアアアッッ!!!
ボアが悲鳴とともに、前足を上げる。
この瞬間を待っていた。
頭を中心に固い骨によって急所への攻撃を防いでいたボアだったが、敵には見せない弱点を顕にした。
ボアとの距離を詰めていた俺は迷うことなくボアの頭の下に潜り込み、まず喉元の肉をかき切った。
そして、その勢いのまま心臓を突き刺した。
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