第三十一話:王との対面

グオオオオオオォォォォォ!!!!!!


最後の抵抗か。


苦痛と悲痛と当て所も無い怒りとをぶつけるが如く、最後の力を振り絞り、ボアはその体躯に相応しい威厳さで生物界の様を見せつけた。


「おおおおおおお!!!」


巨大な体を支えきれず黒い塊は沈みゆく。


俺は咄嗟にボアから離れようとするも足に力が入らない。


「ラトッ!!」


ジェイが他の敵を相手にしながら、俺に手を伸ばそうと叫ぶ


チッ。


みっともないところを見せてしまった。


油断はしていなかったんだがな。


感覚が鈍っていたわけでもない。


常に最善の準備を心がけようとしてきた。


それがこのザマか。


俺はこのノラ街というつまらない街で一生を終えるのか。


早い人生だったな。


まだまだやりたいことも数多くあったんだけどな。


うまい飯も食いたいし、良い女も抱きたかった。


有り余る財を手にして、こんな稼業辞めて遊んで暮らしたかった。


だが、それが今の俺の本心なのか。


この期に及んで葛藤する。


人間てのは全く不思議な生き物だよ。


これが死に際の走馬灯ってやつなのか。


様々な感情が駆け巡り、パンクしそうになる。


しかし、その今にも爆発しそうな俺の意識に飛び込んできたのは、ひとりの少女。


ミラだった。


「ラトッッ!!!!」


ミラが飛び込んでくる。


俺は鮮明になった意識でミラに右手を伸ばす。


俺は強く、それはしっかりとミラの手を握った。


足が動く。


「ああああああああああああ!!!!!!!!」


間一髪逃れた。


はあ、はあ、はあ……。


息が切れる。


天を仰ぐ。


体温を感じる。


ミラの呼吸を感じる。


この身体に巡る鮮血を感じる。


俺は生き残った。


この女に助けられた。


「…よかった。…ご無事で」


ミラがこちらを見つめる。


まったく。


ボロボロじゃねえか。


俺は内心笑っていた。


「おい!!!ラト!!!大丈夫か!!!!」


ジェイが駆けつけてくる。


大丈夫なわけあるか。


もう早く帰って、酒が飲みてえよ…。


「たかが、ボアごときに情けないな。冒険者ども」


王都の兵士が首を垂れ膝をつき、忠誠の意を示す。


やれやれ、どうやら、王とのご対面のようだ…。

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