第二十九話:ルースの兵士

ボアにより破壊され、業火に包まれるノラ街に、人間と獣の肉の焼ける汚臭が充満する。


超級のモンスターと対峙するジェイのパーティ、ミラ、そして俺。他の冒険者は雑魚を片付けるのに手一杯の様子だ。


これまで俺はボアばかり狩ってきた。


まあまあ金になるから、倒しやすい相手だから。


理由は多々あるが、実際には油断すれば命を落とすし、決して楽な敵ではない。


それでもやはり、来る日も来る日も同じ敵と相対していれば、自ずと敵の特徴なり、攻撃パターン等が分かってくるものだ。


だが、目の前の脅威はこれまでの努力と蓄積を否定するものである。


前例が無いとは開拓者にとってみれば日常茶飯事だが、一体のモンスターにしてみても常にこの世で生き残るために進化のプロセスを経ている。


まだまだ知らないことは数多い。


知れば知るほど分からないことが増える。


人類など、この世界では弱者の部類に属する。


だからこそ、ボア狩りを続けているのかもな。


グオオオオォォッッッ。


目の前の脅威は威嚇するように声を張り上げ、地団駄を踏む。


モンスターに感情などあるはずも無いのに、尋常じゃない威圧感を感じる。


「いくぜ!!!!」


ジェイが仲間のパーティと一緒に飛び出す。


全く動じる様子は無い。


一挙一動に迷いも無い。


流石だ。


パーティとの連携も申し分ない。


ジェイが斬り込みを入れる中で、魔法を徹底的に打ち込む。


しかし、決定的な一打には欠けている。


一撃で倒せずとも身動きが取れない状態にできれば。


「俺たちは、脚を狙う」


どこかに必ず突破口はある。


コクッ。


ミラが頷く。


ボアが正面から突進してくる。


左右二手に分かれる。


ジェイたちは衝撃で攻撃に回れない。


全てを破壊尽くそうと蹂躙するその塊はミラの方を目指す。


させない。


無心に、無表情に、ただ一点を見つめ走り出す。


懐に飛び込み、ボアの突進をかわす。


接近したタイミングで足にナイフを。


キンッ。はじかれた。


刃が通らない。くっ、なんて硬いんだ。


「ミラ!」


思わず叫んでいた。


ギリギリのところで攻撃をかわす。


巨体のわりに敏捷なボアだ。


正面からまともに攻撃を受ければ、骨折どころではすまない。


内臓が潰れ、普通の人間であれば衝撃に耐えられず即死。


脚はだめか。


なら、少しずつ体力を削るか。


「やれ」


「おおおおおおおお!!!!」


グサッグサッ。


ギャオオオオォォォッッ。


冷酷な一声とともに、ボアの苦痛に歪む叫びが響く。


プレートアーマーに包まれた兵士がボアの側面から攻撃をしかける。


チッ。今さらかよ。


「やれやれ。冒険者どもも使えんの」


ルースの兵士と王のご登場だ。

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