第二十四話:黒幕

ギルド一階のメインフロアには男臭い輩の様々な感情が行き交っていた。


困惑、焦燥、歓喜、無情。


俺と同じように呼び出された冒険者たちが集い、重苦しい雰囲気に包まれている中、ギルドのスタッフたちは対応に追われているようだ。


やけに慌ただしい。


しかし、依頼の件に対しての事の重大さというよりは、冒険者同士のいがみ合いというか、普段仲の悪いパーティーが狭いフロアで顔を合わせていることによって余計に空気がピリピリとしている。


なんだって、この中に俺らは呼び出されたのか。


そもそも誰からの依頼なんだ、これ。


ギルドからの呼び出しじゃなきゃ、とっとと帰ってしまっているところだが、今回はミラが一緒だ。


不思議とそういう気にもならなかった。


ミラはと言うと、やはりオドオドと空気にのまれている。


思わず微笑してしまう…。


さて、周囲を見渡してみると受付前の喧騒が特に酷い。


シルクを中心に説明しているようだが。


流石、仕事が出来る女だ。


「皆さん!お集まりいただき感謝します!」


シルクが突如大きな声でフロア奥にも聞こえるように話し出す。


「この場に集まっていただいたのは他でもありません!依頼の通知が各冒険者様宛に届いているかと思います!」


冒険者は各々おもむろに依頼書を取り出している。皆同じ内容なのか。


「同じ内容の通知がギルドにも届いております!危機がこの街に迫っていると!」


冒険者たちが沈黙する。


「ですが、依頼者は不明です。」


どよめきが広がる。


依頼者が不明なのに、依頼と言えるのだろうか。


そんなものをギルドは正式に依頼として受理したのだろうか。


『そんなの依頼じゃねーだろ?』『突然集めたくせになんなんだぁ?』


俺と同じような疑問を抱いた冒険者たちが口々に愚痴り出す。


『どうせ依頼自体も大した報酬額にならんのだろ?』


確かにその冒険者が言うように最近の依頼は価格が低下してきている。依頼に見合う報酬が得られているかというと、そうでもないように思う。


まあ、ボア狩りしかしていないんだが。


「ですから!ギルドが依頼人となり、その分報酬をお出しします!」


シルクが声を張り上げる。


なんかムキになってないか。


冒険者たちは先ほどとは違いやる気になっている。


報酬が出るなら断る理由も無いだろう。


「で、具体的な依頼内容は?」


ある冒険者が問う。


「黒幕は今のところ調査中ですが、モンスターの群れがこの街に向かっているようです。依頼通知の段階で即座に偵察チームを送らせていますが、先ほど入った報告によれば、ボアの大群だということです…」


冒険者たちの顔が変わった。


急に吹き出す者もいた。


『ギルドは俺たちを馬鹿にしてんのか?』『たかがボアごときに多くの冒険者を集めたってわけか?』


暴言が飛び交う。


無理もない。


依頼の内容がボア狩りなんて。


俺は全然問題ないがな。


「私も最初は皆さんと同じような反応でした。しかし、この件はどこか妙なのです」


含みを帯びた言い方をする。


「何か良くないものが、バックにいるように思えてなりません」


そいつが黒幕だとして、狙いは一体なんなんだ?


「だからこそ!不安要素が多いからこそ、皆様に正式に依頼します!」


ゴクッ。ミラが唾を飲む。


「この街に訪れる危機を排除してください」

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