第三章 ノラ街防衛戦
第二十一話:依頼
ボア皮の靴で忍び寄る。
草を掻き分ける動作に無駄を入れない。
ボア用のスニーキング。
視界は360°確保出来るつもりで辺り一面に意識を集中させる。
姿勢を若干落とし、息を整える。
右手は剣の鞘近くに遊ばせて置く。
敵の位置を把握した。
個体数は2体。
全長は1m級程か。
耳をぶらぶらさせている。
何か会話をしているのか、リズミカルな鳴き声が聞こえる。
人間で言えば、楽しく二人お喋りしているタイミングで割って入るようなもので、迷惑以外のなにものでも無い。
しかも、それが命の奪い合いだ。
奴等と俺とは相いれることの出来ない関係だ。
自然の摂理で言えば、やるかやられるか。
弱肉強食。
間を計り一気に飛び出す。
敵の不意を突く。閃光のように駆け抜け、鞘に手をかけ、錆び付いた剣を降り下ろした。
ボア狩りの成果はまずまずだった。
戦利品はクレイの店に売りに行こうと思う。
久方ぶりに奴の奇妙な容姿も拝みたい。
路地裏の通りを何本か抜ける。
カラン。
お馴染みのベルの音を鳴らし店内に入る。
いつもの…声はしない。
先客がいるようだ。
「やあ、ラト、またボアかい?」
少ししてクレイが裏口から姿を現した。
この店で俺以外の客と鉢合わせするのは珍しい。
一体どんな奴なのだろうか。
目的外のことではあるが、少しだけ興味が湧いた。
「いつものやつだね。そこに置いてくれ」
指示されるがまま、クレイに指差されたところに戦利品を置く。
「ほら、代金だよ」
これで宿屋代と装備品を揃えるぐらいの金額にはなりそうだ。
この後は少しギルドに寄ってみようと思う。
先日のこともそうだが、今日はシルクと話したい気分だ。
「ラト待ってくれ、君宛のお客様だよ」
ドアノブに手をかけようとした矢先、クレイに呼び止められた。
目を見張る。
そこにいたのは、ギルドでたった1日だけの模擬戦を組み、ノラ街の居酒屋で甘いお酒を嗜んでいたミラだった。
「ボア狩りのラト。依頼。ギルドから」
淡々とそう言って、封書を俺に手渡した。
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