第十九話:朝のルーティン

『…独りではなかったから…』


眠い。


朝だ。


オンボロの宿屋のベッドで目を覚ます。


気持ち悪い。


昨日店を出たところまでは記憶があるが、その後どのルートで宿屋まで戻ったのか覚えていない。


ふとミラの紅く火照った横顔を思い出した。


どこかで見たことのあるような横顔。


その名を口にすることは無いが、時折考えてしまう。


薄暗い部屋の隅にぬ佇むフードの女。


もの寂しげにこちらをうかがう眼差し。


憂鬱だ。


杞憂だ。


気怠げな身体を起こす。


昨日の興奮はもう消えた。


ギルドになんとなく赴き、ジェイと出くわし、模擬戦を敢行。


ボサボサの髪をかきあげる。


なんだって昨日はあんなことをしたのだろうか。


俺は単体冒険者、ボラ狩りの男。


朝から余計なことを考えるのは面倒だ。


いつもの癖で洗面所に向かう。


洗面所と言っても安物の宿屋にそんな立派なものは無い。


表に置いてあるタライに水を満たして身体を洗う。


店主はまだ起床してないようだ。


天気が良い。


朝日が眩しく思える。


手をかざす。風が心地よい。


昨日は結局黙って出て来たので、ミラたちとの交信手段は入手していない。


たまたまギルドで模擬戦の相手として会った仲だ。


大したことではない。


グレートソードの大振りな背中、ミラの正面からの素早い斬り込みを思い出す。


奴等とは一回切りの関係だった。


それ以上でもそれ以下でも無いんだ。


タライの水を流す。


今日は狩りに行かなくてはならない。

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