第十二話:呼吸
相手はどんな奴だ?
ジェイのパーティに入りたいと望むぐらいだから、手練れであろう。
だとして、なぜジェイは俺なんかを模擬戦相手に選んだというのだ?
万年ボア狩している俺をだぞ?
相手が何人かも聞いちゃいなかった。
自然と流れで応えてしまったじゃないか。
俺としたことが冷静さを欠いていたのか。
冷静でなかったのは間違いない。
ボロの一件以降、死に対して敏感になってしまっていた。
なぜこうも死に執着するのかは分からないが、過去の記憶が関係していることに間違いは無いと思っている。
時折、不思議な夢を見る。
それは作り話にしては鮮明で、どこか懐かしさを感じるものなのだ。
Aの3は次を左に曲がったとこだな。
若干握った拳の中が湿っている。
戦いへの緊張はもとより、これから起きようとしている変化を身体がいち早く察知しているようだ。
喜ばしいことではないか。
ギルドのゲートをくぐった時には正直見えない不安がつきまとっていたが、今はそれが少し晴れている。
この戦いが何か変えてくれる気がして、自然と前を向く。
ゲートだ。
「来たか」
ジェイのパーティ以外に見知らぬ顔が5人。
どうやらあいつらが模擬戦の相手らしい。
目付きが鋭くなる。
モンスターを前にした時のようにスイッチが入る。
相手の戦闘力を見極めようと全身の装備に目を凝らす。
「ちっ、こいつが俺様の相手だって?」
バンダナのようなものを顔に巻いた、盗賊風の中背の男が明らかに相手にとって不足だと口を出す。
積極的に同調する者は他にいないようだが、そもそも俺には興味が無いかのようだ。
驚愕した。
初めから俺のことなんか眼中にないというよりは、戦いそのものに対して慣れていない感じが見て取れた。
どこか上の空で、どこを見ているのか全くわからない。
5人とも気迫のようなものが感じられない。
一体なんなんだ、こいつらは。
気張っていた神経が徐々に緩み、状況を分析しようと冷静に呼吸を整える。
口の悪いバンダナの野郎の他には、深く長い帽子を被り明らかに無口そうでボソボソと話している子ども。
周りをキョロキョロし、終始落ち着きがない女。
でっかい刀を担いで今にもジェイに斬りかかろうとしている目付きの悪い男。
そして、腰に剣を収めフードを被った女の子。
この5人だ。
手練れ…なのだろうか、いやきっと手練れなのだ。
ジェイがなぜ俺を模擬戦に加えたのかも気になるところではある。
「おし、そんじゃあ早速だが、6人だから3人ずつでパーティを組め。時間もねえことだしな」
パーティ…を組め?
「んなあ、ジェイさんよ?なんで俺様がこんな奴等と組まなきゃなんねんだあ?」
バンダナ野郎がお約束で口を挟む。
「即興で組んだ相手とも協力できないようでは、俺のパーティでやっていくことは難しい。俺のパーティは人の入れ替わりが激しいからな。それを見るためでもある。それに」
それに…?
「戦いは一人では出来ない。いや、勿論一人で戦うことは出来る。しかし、誰と戦うかで、全く状況は変わってくる。君たちは個々の力は目を見張るものがある。だが、明らかに不足しているものがある。それをこの模擬戦で感じ取ってもらいたい」
…なんだよ、それ。何様だよ、ジェイ。
お前の提案につられてここまできたが、強い奴と相対し、俺の力を高めるっていうプランが台無しじゃねえか。
ふざけんな。
しかし、パーティという響きが引っかかる。
単独で狩りに挑む俺がパーティを組むか。
ふんっ…まあ、やってやろうじゃねえか。
俺のパーティメンバーは、グレートソードとフード。
相手はバンダナと子どもと錯乱女だ。
相手の力も未知数だが、味方の能力も全く何も分からない。
正直不安でしかないが、話は出来るらしい。
グレートソードが前衛で俺とフードでバックアップする。
フードはコクッと小さく頷くだけだ。
グレートソードは一秒でも敵を切り裂きたいとウズウズしている。
戦闘開始だ。
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