第十一話:ギルド
数日だけだが、狩りに行くのを止めた。
気分が乗らないのと、集中力を欠いた状態で戦っても危険だと判断した。
ボアとは言え、油断すると強烈な突進が正面からくる。
まともにくらえば、軽傷では済まない。
それに、なんだか今まで通りではいけない気がした。
これまでのように単独で狩りに出掛けても限界がある。
前からその可能性について考えてはいたが、いよいよ今がその行動する時だと感じた。
剣を携え向かう場所は、ノラ街中央にある噴水から、北東に1km程歩いた場所にある冒険者ギルドだ。
冒険者は狩りに必要な装備を揃えるときは勿論、戦闘訓練を行う際にも利用する。
俺がここに来るのは、冒険者の印章更新のためであったり、訓練のため。
そういえば、近頃久しく来てなかった。
ギルド入り口にある大仰なゲートをくぐると、まるで要塞のような冒険者ギルドの建造物が顔を出す。
毎度この瞬間だけスゲーと圧倒される。
冒険者ってやっぱカッコいいよなあと不思議と思ってしまうのだが、中に入れば大したことはない。
単なる複合施設である。
「やあ、ラト。相変わらず」
受付のシルクが気さくに話しかけてくる。
銀色の長い髪にスラーっとした長身。女と形容するに相応しい容姿。加えて、機転が利き、性格も良い。
非の打ち所がないとは正にこのことを言う。
「どうしました?」
彼女にはギルドに来た当初から世話になりっぱなしだ。
この世界に来た当初、どうにかこうにか冒険者ギルドに流れ着いたが、何をすればいいのか右往左往している俺に笑顔で話し掛けてくれたのが、シルクだった。
「模擬戦闘をしたいんだけど、今空きはあるかな?」
「ちょっとお待ちください。お探しします」
俺には兄弟がいた記憶があるが、今はこの世界に来て一人だ。
そんな俺の心の空白を埋めてくれたひとりは紛れもなく彼女だろう。
姉さんがいたら、こんな感じなのだろうか。
「おい、ラト」
背後で手を挙げて近付いてくる男がいる。
…ジェイだ。
とりあえず返事はするが、だるそうな気持ちは伝わったらしい。
「なんだよ、久しくあったのにその態度か?最近、萎れてたみてえだが、やっとやる気になったのかよ?相変わらず、連れねえ男だな」
一々うるさい奴だ。
嫌いではないのだが、好きにはなれない。
お互いそこは理解しているのだろう。ある程度の距離感は保っている。
「丁度良いところで会ったと思ってよ。今、パーティメンバーと模擬戦やってきたとこだ。それでな、俺のパーティに入りてえっていう奴等がいるんだが、そいつらの相手をしてみてくんねえかな?なあ、親友のよしみで一つ頼むわ。ラトが相手なら、良い参考になると思うんだわ」
人を頼りにしているのか、馬鹿にしているのか分からない言い方をしてくる。
悪気は無いと思うが、一々面倒くさい。
断ってもいいが、どうせギルドには鈍った身体をほぐしにきたわけで、丁度良い訓練になるかもしれない。
迷ったが、誘いを受けることにした。
「よし、そうと決まれば、さっさと行くぞ。俺は奴らに伝えてくっから。シルクさん、よろしく頼むわ」
今まで模擬戦をやって身体もヘトヘトなはずなのに、馬鹿でかく笑って足早に去っていく。
なんてやつだ。
「ラトさん、準備はよろしいですか?では、Aの3号までお願いします」
ここまで来たら、やってやるか。
対人戦闘は普段あまりやらないが、今日はなんだか乗り気だった。
少し不思議な気もしたが、変化を望む意識の結果だろうと軽く考えていた。
剣に触れる。
ボロの姿が一瞬脳裏をよぎった。
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