第十話:叶わない願

ボロの一件で、気持ちが緩んでいたわけではない。


複雑な心境だったのは事実だ。


ただ、毎晩、寝る前に彼女の細い手足や瞳を思い出してしまうと、どうしても眠れない。


どうでもよかった奴の死が、ただの無関係の死ではなくなった。


例えば、パーティを組めば、戦略の幅も広がり、モンスターに与えられるダメージも増える。


しかし、同時に、自分以外の誰かが、モンスターによって殺される可能性も大いにあり得る。


これまで単独で戦ってきた俺にとって、パーティに対して多少の憧れはあった。


誰かと組んで強いモンスターと対峙したい。


もっとデカイ手柄を立てたい。


しかし、なぜ、これまでそれをしてこなかったか。


勿論親しい仲間がいないことは明白だったし、ボア狩しか出来ない弱小者をパーティに加えたりなど出来ないことは分かっていた。


でも、そんな俺でも、一縷の希望みたいなものを持ってしまったんだから、仕方ないじゃないか。


誰かと組んで、一緒に狩りに出掛け、一緒に笑い、悲しむ。


そんな当たり前のようなことを、俺にだって経験させてくれてもいいじゃないか。


畜生。


死が怖くないなんて嘘だ。


仲間の死も、俺自身の命も。

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