批評を切り離せないこと

「マシュマロ」という匿名メッセージサービスがある。これの面白いところは「悪意のあるメッセージ」をAIが自動的に弾いてくれて、受け取り手に届かないようにしてくれるとこだ。設定でそのグラデーションはいじれて、もちろん「どんなメッセージでも」受け取れるようにもできる。

私は確か「そのまま」にしておいたので、多少は「悪意のあるメッセージ」が届くこともある。



結構小説を書いている人でこのサービスを使っている人は多い。Twitterでメッセージ募集もできるから人目につきやすいし拡散もされやすい。作品の感想なんかを求めたりすると意外と集まったりもする。でも匿名というのがメリットにもデメリットにもなって、気軽な反面同じように悪意だってお手軽に送られてくる。

だがこの悪意というのは少々厄介で、ある程度は主観による。特にそれが「批評」という形をとっていればなおのことだ。ちょっと最近面白いことがあって、そのことについて考えていた。

匿名による批評はマナー違反なのか、ということだ。最近のネットマナーはよく知らないからなんとも言えないけれど、「本人に直接言ってこない批評は言い逃げ」なんだそうでこれでとても立腹している人を見た。

直接言ってくる、というのがポイントでこれは必然的に言う方も自分の名前や存在を相手に晒すことになる。こういう形をとれば、手厳しい批評でも許されるらしい。



私は今回「言い逃げ」という言葉自体初めて知ったので、へぇという感じで見ていた。件のマシュマロも見たけど、内容自体は別に的外れでもなんでもないと感じた。でもこれは主観の問題で、「暴言」だと感じる人もいるから難しいところだ。

私はあまり他人の評価に興味がない。だから批評を匿名で言われようが、実名を晒して言われようがそこはあんまり気にしない。誰が言った、よりも何を言われたかの方がずっと大切だし中身のあることだと思うからだ。それにいくら「直接」といったところで晒せる程度はしれている。言い方は悪いが、たかが素人の書く小説に実名や住所職業その他まで晒して批評を寄越してくれる人なんていない。せいぜいがSNSのアカウント名くらいだろうと思う。それが佐藤一郎だろうが山田花子だろうが、本名である保証はないし本質的には匿名と遜色ないように思える。

私にとってのインターネットと、今回立腹していた人にとってのインターネットの意味合いと距離感が根本的に違うんだろうなぁとは思う。でも、こういうことは珍しくないんだろうなぁとも改めて思う。

生身の人間関係の延長線上にインターネットでの人間関係がある。その線引きは曖昧で時には無条件に肯定されて認めてもらえるネット空間の方が生身のそれより優越することもあるのだろうと思う。

私は割とドライに考えてしまうから、変なことを言われても、しばらくしたら「まあ、いっか」となってしまう。



反応がなければ書けない人はたくさんいる。褒めてもらわなければ書けない人もたくさんいる。私ははっきり言って、そういう人たちのことは理解できない。

文章を書く行為自体が孤独なものだし、誰かの声がなければ書けない人は向いていないのではないかと思う。

どうしてそう褒められたがるのか分からないし、感想が欲しいのかも分からない。自分が思うようにやればいいのになぁと思う。

こういう自分の文章を晒せる場が、社会インフラのひとつになって当たり前の世代にとっては、感想や反応(それも好意的なもの)はごく当たり前のものとなっているのかもしれない。

こういう投稿サイトのおかげで文章を書くことが、それ自体でコミュニケーションのひとつとなった。それが作者と読者の関係を難しくもしているし、純粋な作品の批評とその在り方を厄介にさせているのだと思う。この場合の悪者とは、あるようでない。

投稿サイトはあくまでハコでしかない。そのデザイン(ランキングだとかPV、ポイントなんか)が競争心や嫉妬心や自己顕示欲を刺激することはあるだろうけど、それは受け手の内面の問題だと思う。



私が思うのは、作品への批評と自分自身を切り離して考えられない人の多さだ。作品の瑕疵と、それを書いた人自身の人格とは分けて考えなければならないと思う。だが意外なことにその切り離しを読者も作者もできていない人が多い。

だから批評というのは飛び越えて単なる悪口になってしまうし、逆に真っ当な批評というのは人格攻撃や否定と見なされてしまう。私は作品と自分自身への批評を分けて考えられない人は匿名であろうが実名であろうが、結局「なんだこの野郎」で終わってしまうと思う。



だが、一番大切なのことは何を言われるかではなくて、何を書くかなのだ。

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