本のある生活

先日朝日文庫、エヴァ・シュロス著の「エヴァの震える朝」とちくま学芸文庫、フィリップ・ポンス著の「裏社会の日本史」を買った。それから間もないのだけれど、今日も書籍を6冊買ってしまった。私はちくま学芸文庫が一番好きな出版社なのだけれど、なかなかこれを揃えている書店というのがない。今日行ったところはかなり冊数を揃えているので、つい買ってしまった。ずっと読みたいと思っていたエリック・ボブズボーム著の「20世紀の歴史 上・下」だ。他にも気になったものはあったが、これは来月給料が出てからまた見てみようと思う。

他には岩波現代文庫から、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」「ボタン穴から見た戦争 白ロシアの子供たちの証言」だ。

また講談社文芸文庫から、三木清の「大学論集」「文芸批評集」を買った。こちらがすぐに読めそうなので、早速読んでいる。



さて「エヴァの震える朝」はアンネ・フランクの義姉であるエヴァ・シュロスの自伝である。以前新聞の人物欄で、アンネの義姉として扱われることへの複雑な心境を吐露していることに興味を惹かれていたから、買ってみた。副題は「15歳の少女が生き抜いたアウシュヴィッツ」である。戦争への視点という延長で、今日はスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの書籍を買ってみたというわけだ。

本を読む面白さというのは、こうした「視線(思考でもいい)の延長性、あるいは飛躍」だと私は思う。1冊の本は100冊の本に通じる。一つのテーマ、一つの事柄から人物、歴史、文学、美術、哲学、宗教、自然科学……というように無数の視点や教養へと広がっていく。また本を読むときの大切なことは、こうした「広がり」を意識することでもあると私は思う。

よく私たちは、学生時代に大人たちから「本を読め」と言われる。だが「なぜ読まなければならないのか」というところは曖昧だった記憶がある。

働き出してから思うことだが、本を読むことは本当に大切だ。なぜ大切なのかというと、「本は心を豊かにするから」というようなぼんやりしたことではなくて、本を読むこと……もっと解体して言えば「体系だった(あるいは起承転結のある)文章を読み込むこと」が思考の型の基礎を作るからだ。私たちは言葉で生きている。本はその言葉を研磨するものだと私は思う。

思考をマクロなもの、言葉をミクロなものとすれば、ミクロを磨けばマクロも自ずと整えられていく。それこそが、本を読むことの最も大切なことなのではないか。

そうしたものの延長に、「心の豊かさ」「想像力のたくましさ」なんかがあるのではないかと思う。豊かな思考と、基礎のしっかりとした思考力なしにより高次の抽象的な精神的豊かさはないと思う。

そして、そうした「豊かさ」は子どもよりも大人にこそ求められる「教養」であると思う。だが、大人特に働く人にはその機会があまりに少ない。



私は給料が出ると、まず最初に本を買う。なにをおいてもまず本だ。つくづく思うことは、「読書とは習慣である」ということだ。これに関しては、子どもの頃の生活習慣である程度決まってしまう部分はあると思う。成人を越してから、本を読み出しても読みづらい、目が滑る、苦痛に感じる……というのは、習慣でなかったがゆえ、ある意味自然な反応なのではないかと思う。

読もうと思って読んでいるうちは、まだ習慣ではなく、読まなければ何となく気持ち悪い、気がついたら手に取っている……というのが習慣なのではないか。



本を読まないことは、もったいないと私は思う。本はよい先生になってくれる。神話も古典も聖書も、そしてあらゆる学問も開いて見せてくれる教師はそういない。

歳を取れば、学ぶ機会はそうない。社会に出た途端、目先のものばかりに気を取られてもっと本質的なもの根本的なものには心が傾かなくなる。

どうして私たちは生きているんだろうもか、死んでいくのだろうとか。どうして社会の中には格差や不平等が存在するのだろうとか……そういうことを考えるのはある意味では大人の側の責任なのだと思う。これからの世界や社会の中で生きていくのは私たちでもあるが、次の世代の子どもたちでもある。社会の豊かさは、大人の内面の豊かさとも比例するのではないかと思う。

ACのコマーシャルだったか、「読めば君の知層になる」という標語があった。確かに、人は本のみで学ぶのではない。捻くれたショウペンハウエルの格言を持ち出すまでもない。

でもやっぱり、静かに紙の本をめくって思考の延長や飛躍を楽しむことは「学校」や「教師」のついてくれない大人にとってはかけがえのない体験の一つだと思う。



本のある生活は、そのまま豊かさのある生活ともいえるだろう。

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