誰も彼もが承認されたがっている

現代ほど、他者という視線を通して自己を評価する時代もないだろうと最近感じる。

ここでは、誰も彼もが肯定されたがり、承認されたがっている。


一体誰に?


それは無数の「他者」にだ。なにをするにもまず他者の反応がなければならないし、それは絶対的な基準になる。現代の社会インフラは、そうした他者の反応を客観的に可視化できるようなシステムを作り上げた。私たちは、まるで薬物依存者のように、それなしでは生きられないようになっている。

このことを痛感したのは、あるエッセイを読んだからだ。

読後、私は純粋に疑問を持った。


「どうしてそこまで他人に認めてもらいたがる?」


少し視点は移動するが、肯定や承認を「創作活動」との関係の中で考えてみる。世の中には、少なくない人が他者からの反応を創作活動をする上でのモチベーションや今後の展開の基準にする人が多い。

これが一番私はよく分からない。

私は単純で、「人がどう見るか」ということは基本的に考えない。「自分がどうできるか」が第一で、そのほかの反応は二次的なものでしかない。あくまでインターネットのサイトも「物置き」としての機能しか期待していないから、感想が来ないとかポイントが伸びないとかも考えない。所詮は素人の趣味だし、どうでもいいと思ってしまう。反応があったら儲けもんだし、ないのが基本だと思っている。

だが、反応がないポイントが伸びないという悩みは普遍的なようでこの種のエッセイや創作論はよく見る。ふと思うのだけれど、そういう風に悩む人にとっては、「小説を書く」という行為は前提として創作活動があるのではなく、「小説を書くことを通したコミュニーケーション」の一環となっているのではないか。

それに善悪をつけるのはナンセンスだが、私は他者の軸を過剰に持ち込んで悩んでいる人を見ると、「もったいないな」と思う。

別に誰かに認めてもらえなかったって、「書いている」という事実は変わらないし、楽しいのならそれでいいんじゃないのか。

読み書きできることの文化的豊かさというのは、当たり前ではない。今こうして書けること、それ自体がかけがえのないものなのに、誰もそこは振り返りもしない。自分がなにをどう書けるのか、書きたいのか、そこに興味は向かないのだろうか。私はそこに一番興味がある。

どうしてこうみんな躍起になって誰かの目線に縋ろうと、そして自分をそれで測ろうとするのだろう。

「書くことが何よりも好きなら、君はすでに作家だ」と、ある文豪が読者の手紙に書いたそうだが、他人に自分を尋ねすぎる時代の雰囲気を私は好きにはなれない。

お前の外に、お前を尋ねるなとは、また別の人が言ったけれど私は一理あると思う。特に文章表現なんて、どれだけ自分の孤独を見つめられるかでもあるのに初めから終わりまで、「他者」が介在することに辟易とさせられることがある。

私は人間同士というのは、真の部分では繋がり合えない、理解し合うことのできない孤独な存在だと思っている。私たちは全くの隔絶された「個」としての存在でしかない。

それだから、私たちは「個」であるがゆえに愛や友情や恋人や家族を持ちたがるのだ。その中に文学があり芸術がある。たとえ素人の手遊びだって、同じだろうと思う。本質的には繋がり合えない、分かり合うことのできない存在である私たちは悲惨な存在かもしれない。そうした世界の中で、多くの人たちが何かを「書いている」。他者の視線の中で……。

そこに突き詰められた自己はない。私は個人的にそれを哀しいと思う。他者に最終的には還元される自己。語弊を恐れずに言えば去勢された自己を、過剰に他者の反応を気にする人たちの言葉を見ると感じる。

現代は「他者」という雑音が大き過ぎる。誰も彼もが肯定されたがり、承認されたがる。あらゆる行為の「権威づけ」に他者からの肯定や承認が絶対条件となる。

他者は決して悪ではない。だが今の時代は他者が、その反応を全面にしたものがあまりに多い。そこでは名前のある生身の個人は霞む。

だから私はこんな風に思う。


もっと自分に聞こう。

孤独の中に立ち返ってみよう、と。

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