エピローグ2話
制服に着替えた私たちが家を出たとき、空の雲はふたつしかなかった。
「天気予報、外れたね」
並んで歩く私たちはあいかわらず違う制服を着ていた。菫が黒い古風なセーラー服を着ているのに対し、私は明るいブラウンのブレザーだった。菫は不思議そうに、見慣れているはずの私のブレザーを見た。
「先輩、セーラー服着ないんですか?」
「貧乏だからね」
「あ……すみません」
菫は申し訳なさそうに俯いてしまった。私は彼女の頭を撫で、微笑みかけた。
「冗談。……引っ越してきたばかりの時はさ、一緒にされたくないっていう反抗心から着替えてなかったんだよね。けど、いまはどうでもよくなってきたっていうか、菫とお揃いの制服を着るのもいいかなって思うようになってきたかも」
「じゃあ、明日から。お揃いの制服で登校しましょう?」
私たちは手をつなぎ、学校に続く道をいっしょに歩いた。
学校に着いた私たちは下駄箱で別れ、各々の教室を目指した。
私が教室に入ると、依子と目があった。けれど、彼女は私がまるでないものであるかのようになんの反応も見せずに視線を逸らし、友人と談笑を続けた。
あの日から一転して私がひどくいじめられるということもなければ、クラスの人が私を親しげに迎え入れてくれるということもない。
私はクラスメイトに挨拶することもなくまっすぐ自分の席に向い、着席する。そろそろ寒くなりつつあるというのに教室の窓は開いていて、穏やかな風でカーテンがそよいでいた。窓の外を眺めるとふたつの雲は私たちの町から遠ざかるように流れていた。
どこかに行きたいな。菫とふたりで、逃避行ではない、この町に帰ってくることを前提とした小さな旅行。
菫はいま何をしているのだろう。それを聞こうとして私は携帯を取り出しかけ、やめた。菫は学校の規則である携帯禁止を律儀に守って、学校にいるときは電源を切っているのだった。
代わりに私はペンとメモ帳を取り出し、お昼の話題として今日は何をしていたかということを書きつけ、そこに旅行に行きたいということも付け加えた。
それから授業中はそのメモ帳を開いたまま、新たに面白いことがあれば書き加えていた。そんなことをしなくてもお昼まで覚えていられるのだけれど、話している内容があまりにも取り留めがなく、何気ないものばかりなので、何を話したかを忘れてしまいそうだった。だからあらかじめメモに残しておくのだ。
ところどころ発見ではなく、菫に伝えたいメッセージや、夢というにはあまりにも小さくささやかな願い事、希望を書き残している。
午前中の授業が終わり、昼休みを迎えるチャイムが鳴ると、私はメモ帳をポケットに入れ、今朝買ったコンビニのパンが入った袋を持って教室から出た。
クラスメイトはそんな私を目で追うように眺め、友人に声をかけられて我に返っていた。
私が一階に着くと、既に菫が下駄箱にもたれかかるようにして私を待っていた。私に気がついて顔を上げた菫は満面の笑を浮かべ、嬉しそうに私のもとに駆け寄ってきた。
私は出来うる限り早く教室を出たつもりだったけれど、菫のほうがさきにいるのはなぜだろう。
「先輩を待たせるわけには行きませんから。……それに、教室から逃げるのに慣れてしまっているのかもしれません」
すこしだけ落ち込んだ様子の菫の頭を撫で、私たちはいつもの中庭のベンチに向かった。
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