プロローグ3話

 転校先の校舎はあまり綺麗ではなかった。かといって木造のいかにも田舎という建物でもなく、薄汚いコンクリの建造物はその町の財政難がどの程度のものかなんとなくわかる気がした。きっと、生徒数もたいしたことはないのだろう。

 私は以前通っていた高校の制服のまま投稿した。今日から担任となる中年というにはまだ若い体育会系な見た目の教師に導かれながら教室に向かう。

「新しい制服が届いたら、着てくるんだぞ」

「貧乏なので、制服買う余裕なんてありません」

 私がそう言うと、教師は言葉を詰まらせて気まずそうに顔を逸らした。

 私の家庭事情を知っていて哀れんだのか、それ以上は何も言ってこなかった。私は勝った気になって鼻で笑いはしたものの、手にしたのは虚しさだけだった。熱血を装っていても、家庭に深く入り込んでくる教師はもう絶滅したのだろう。

 ともかく、私は古い制服を着続けられるようになり、ここの生徒とは違う存在だということをアピールしながら壁を作ることができるようになった。

 先に教師が教室に入り、私は廊下に取り残された。このままどこかに行ってしまおうかとも思ったけれど、実行するだけの気力もなかった。

「今日からクラスに新しい仲間が加わるぞ」

 教師から入場の合図がでたので、扉を開けてなかに入ると三〇もの視線が私に集まった。自分たちとは違うブレザーの色を羨む声を聞き、私はほくそ笑んだ。

「橋本薫です」

 教壇のそばに立ち、黒板に名前を書くこともせず、すました顔で自己紹介した。

 それから、と期待の眼差しを無視し、一番後ろの席で空いているところが自分の席だろうから、そこをまっすぐに目指した。

 教師の制止も、隣の席にいる人も育ちもよさそうな女子生徒の挨拶も聞こえないふりして席に着く。入室して一分で、なんだこいつは、という雰囲気ができた。それは以前の学校でも同じことだったので、むしろ居心地がいいくらいだ。

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