第61話 交錯する思い 1

 ――なにか真っ黒なものが一瞬視界を覆った。



 背後からは暮斗の声が聞こえた。



 一瞬立ち止まって振り返ったがまだ振り切ることが出来ず逃げ出した。彼の言葉も聞かずに。



 そして気がつけば視界がブラックアウトしたのち、自分はビルの屋上でへたり込んでいた。



 その側にいたのは、上司であるはざまだった。



 なんらかの能力を使用し、あまねをここへ誘ったのだ。



「間……さん?」



「……こないだの抗争以来だな」



「……はい」



「…………追われていたな」



「…………はい」



 非常にバツが悪かった。



 怪人連盟を裏切り、人間を助けてヒーローと一緒にいたという情報は既に間も知っていることだろう。



 だというのに、間は匿ってくれたのだ。



 何故だか訳がわからなかった。



 そんな考えを察したのか、間から口を開いた。



「あれがお前を誑かしたヒーローか。まったく、お前を傷つけるなんて、絶対に許せない」



「……間さん?」



「あまね。心配したぞ」



 間はいつになく優しい顔をしていた。いつものような剣幕は見られず、優しい、優しい。



 間はあまねのことを強く抱きしめた。今まで見たことのない、知らない間だった。



「……間さん」



「本当に心配したんだ……。お前がこの前の抗争で人間を助けたって聞いたときからずっとだ。ずっとずっと気が気じゃなかった。お前のことはあやねからくれぐれも頼まれてるんだ。お前は私の前からいなくならないでくれ……」



 あまねはここまで弱気な間は初めて見た。



 普段見ないその姿に戦慄すらする。



「……それで、さっきの奴は誰だ? 知ってる奴か?」



 そんなはざまだったが、しばらくすると気丈なトーンを取り戻してあまねに問うた。



 知ってる奴もなにも、知らないわけがない。



「……あの人は……」



「言いにくいのか? お前の知り合いか?」



「……あの人は御門暮斗って人で……」



「なに? 御門だと?」



 眉間に皺がより、怪訝な声を出す。



 声の調子から間は暮斗のことを知っている様子だった。



「知ってるんですか?」



「当たり前だ。奴はあやねを殺した悪は絶対許さないマンだ。本名は一部の者しか知らんがな」



「……やっぱり暮斗は悪は絶対許さないマンなんですね」



 間の口からそう宣告されたことで、今まで疑っていた情報は確定となった。



 信じたくなかったが、暮斗はやはり悪は絶対許さないマンなのだ。



 なんとなく悔しくなって、奥歯を噛む。



 だがそんなあまねの様子を見て間は血相を変え詰め寄った。

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