第44話 彼女の最後の日 1
連盟の号令を受けて一斉に動き出した怪人達に混じり、あまねは早速行動を開始した。
多くの怪人達はレゾナンスを使用しないままであり、人間態のまま行動している。
肉体そのものを変化させる怪人連盟式のレゾナンスは、得られるパワーが大きい代わりに負担も軽くはないのだ。
ヒーロー協会の装備型レゾナンスとは対称的に、自身の性質を利用したものであるレゾナンスとはいえ適合率が低い場合がある。その場合上手くレゾナンスを扱うことができないのだ。その代わりとして負担はギアが肩代わりするため負担は実質ゼロに近い。
装備が破壊されると使えないという点もあるが、裏を返せば修復さえすれば再利用可能ということでもある。
と、そのような理由も相まって怪人達は普段は人間態を主として使っているのだった。単純に擬態目的ということもあったが。
そんな怪人たちに紛れてあまねも行動を開始するが、どこか落ち着きが足りず、ずっとそわそわしていた。当然である。今から周囲にいる怪人たちをある意味裏切り、離別する道を選ぶのだから。
「ひぇぇ……」
今更ながら自分がやろうとしていることの大胆さに一驚しダラダラと冷や汗を垂らした。顔面もいつのまにか蒼白になって体をガタガタ震わせている。あまねは嘘が得意ではない。
突如携帯のバイブレーションのごとく震え始めたあまねを見た近くの怪人が心配そうな声色であまねに話しかけた。
「おい大丈夫か? 体調でも悪いのか?」
「どわぁっ! 何奴!」
「いや何奴ってなんだよ……。お前と同じ怪人に決まってんだろ……? 緊張で頭がやられたのか?」
「ああ怪人ね! 奇遇ね、あたしも怪人なのよ!」
「いや知ってるし……。下っ端パーカー着てるんだから当たり前だろ」
「……すごい洞察力ね」
「ダメだこいつは。悪いことは言わんから医療班のとこで休んどけ」
「なんでよ! あたしのどこを見て病人だと思ったのよ! 見ての通り元気でしょ!」
「外見じゃ頭の中身までは判別出来ないからな。戦場で死ぬ前にさっさとCTスキャンでも受けてこい」
「失礼ね! 頭の中も正常よ! なんなら頭の中掻っ捌いて見て見なさいよ!」
「やっぱり頭おかしいじゃないか…………と、お前緊張してんのか?」
「……緊張?」
「そうだ。今わかったよ。お前緊張してるんだよ。どうやら今ので解けたみたいだけどな」
そう言われてあまねはハッとした。
あれだけガタガタになっていたというのに、いつのまにか緊張が解けている。
「あ……ほんとだ」
「なら良かった。緊張で体が動かなくなって死ぬだなんてそんなもったいない真似して欲しくないからな。お前はまだ若いし、これからの人生を知らずに死ぬなんてことは『もったいなさすぎる』」
あまねはきょとんとした。
その言葉はこれから破壊活動を行う者のそれではなく、ただの『いい人』にしか見えなかったのだ。
そういえば、と思い返す。
間も表面上口は悪いが、長い目で見れば気遣いになっているという点が非常に多いのだ。
「……ありがと」
あまねは素直に礼を言った。そして口には出さないが、このような者のためにも、ヒーローとか怪人とか、そういったものがない世界を作るという暮斗の理想をより一層成し遂げたと思った。
暮斗のような『いい人』と、この人のような『いい人』が一緒に居られることがどれだけ素敵なことなのだろうか。
再び邁進するための活力が得られたあまねはいつもの調子を取り戻した。
「行ってくるわ! 絶対にいい結果を出すの!」
「ああ行ってこい。自分の思うようにな。……本来は、お前のような若い子にはあんまりこういうことしてほしくないんだけどなぁ……」
「? 大丈夫よ。なんとかなるから!」
そうしてあまねは男の返事も待たずに一目散に駆け出した。目指すは暮斗との合流場所。
――その時、遠くで一つの爆発が発生した。
「……始まった!」
あまねの顔が引き締まる。
その爆発はヒーローと怪人の抗争がどこかで発生したという証である。どこかで戦いが始まったのだ。
「こうしちゃいられないわ……!」
暮斗との合流が一刻も早く急がれた。彼がいないと作戦が始まらない。
やがてその爆発を皮切りに、あちこちで爆発が起き始めた。あまねがこれまで度々経験してきた小競り合いなどなんの役にも立たないような戦いが待ち受けているのだ。
しかし臆している暇はない。覚悟はもう決めた。今更退くという選択肢はないのだ。
「…………でも怖いわ……。ひぃー……こわぁーい」
ただ、格闘能力もレゾナンスも持たずなんの対抗手段もないあまねは、少なくともヒーローに見つからないようコソコソと影に隠れて移動を始めた。戦闘になったらまず勝機はないだろう。
早く移動しないと。
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