第43話 開戦秒読み 2

普段はただの変な筋肉ダルマだが、壇上に立つとぴりりと雰囲気が変わる。



ガイ――心強い強力なヒーローが現れたことで場がざわざわと湧き立ち始めた。このことからガイの人気が高いことがうかがえた。すぐ近くにいる女のヒーローなんかは黄色い声をあげていた。



清潭な顔つきをしたガイはマイクを手に取り、ヒーロー達に発破をかけるのだった。



『……あー諸君。序列五位のマイティ・ガイだ』



名乗った瞬間、耳をつんざくような大歓声が巻き起こる。元から人気が高いことは知っていたが、ここまでとは思っていなかった暮斗はその声量に度肝を抜かれた。



『おいおい。元気がいいのはいいことだがここで体力を使い果たさないでくれよな。本番はここじゃねーんだ』



彼のことをよく知っている暮斗からすると、さっさと先を話ししてしまって面倒なことから解放されてしまいたいのだろうガイの表情は辟易しているように見えた。歓声のせいでいつまでたっても次の話へ進むことが出来ない。



ざわざわとした空気はしばらくおさまることがなかったが、作戦開始時間も迫っていることも鑑みてガイは大きな咳払いをした。流石にそれで騒ぐ子供のような者はおらず、場はしぃんと静まりかえった。



『……あー、面倒だしさっさと終わらせよう。……えー、諸君らはヒーローという存在の意味を考えたことがあるだろうか? 辞書によると意味は敬慕の的となる人物。英雄……だそうだ。まぁ、角ばった言い方だが要は正義の味方だってことだな。そこで問うが諸君らにとっての正義とはなんだ? それは諸君達一人一人違うと思うが、俺が思うにヒーローとは、最低条件として"人"を守ることが出来ることが出来る者だと思ってる。人の痛みを理解出来ない奴にヒーローを名乗る資格はない。敵を倒したからといってヒーローじゃない。いいか? 敵を倒すことより市民を守ること、仲間を守ること、そして自分を守ることを最優先しろ。それがここで戦うヒーローとしての最低条件だ。今回序列一位の悪は絶対許さないマンは参戦していないが、みんなの力を全て合わせたならば彼一人の力を上回ることが出来るはずだ! 諸君の健闘を祈る! 以上だ!』



堅苦しい言い方しやがって、と暮斗は口角を上げた。



ガイの言ったことの前半は、別にいらなかった。彼の主張は



『市民と仲間と自分を大切にしろ』



という箇所のみである。



だが、そこだけでは演説感が出ないためあえて付け加えたのだろう。細かいことが苦手なガイにしてはよくやったものである。



……おそらく、舞の手助けあってのあの演説だろうが。



(おそらく)二人で作り上げた演説の効果はまさにてきめんで、ガイが名乗りを上げた時を上回るほどの大歓声がキャンプ地に響いていた。あまりの声量に空気が振動する。



と、その時不意にガイと視線があった。



彼の視線は訴えかけている。『頑張れよ』と。



暮斗はそれに答えるように『お前もな』と、アイコンタクトを送った。



「……さて、それじゃあお仕事開始といきますか」



暮斗は屈伸をすると、固まった体をほぐして一人キャンプ地を抜け出し一足早く行動を開始した。



ディア・エスケイプをスロットに差し込み、発動させる。



『スタンバイ、ディア・エスケープ。オールコレクト。ディア・エスケープ、ウェイクアップ』












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